2005年(平成17年)12月1日号

No.307

銀座一丁目新聞

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追悼録(222)

「後藤田正晴さんの遺言」

  TBS「時事放談」編・後藤田正晴著「日本への遺言」(毎日新聞刊)を読んだ。後藤田さんは今年の9月19日死去。享年91歳であった。「時事放談」で発言した内容を番組の司会者、毎日新聞特別顧問、岩見隆夫さんがまとめたものである。私は警視庁記者クラブ、同庁キャップなど足かけ6年ほどいたし、論説委員の時は後藤田さんは警察庁長官であったのでそれなりの交流があった。本書には聞くべき意見が少なくない。
 「時間がない」と嘆いておられる。「やはりこの年になると時間がないということですよ。これがつらい。だってやらないといかんなって個人的に思うことがいくらでもある。調べないといけないこともあれば。本も読まなければならない。時間がない。ここが若い人とは全然違う」80歳の私もそれを痛感する。己の無知を嫌と言うほど知る昨今である。勉強したいことがいっぱいある。若いときは他人よりは本を読んだと思っている。それでもこの年になってみると少ないと気がつく。若い人へアドバイスする。「いや、励ましって、90のじさんにそれは無理だ。ただ言えることはね、読み書きそろばん、つまり 、きほんをしっかり勉強してくれよ、と。それだけだね」「読み書きそろばん」は実に大切である。私は少なくとも四書(大学、中庸、孔子、孟子)の再読を進める。さらに新渡戸稲造の「武士道」を付け加える。二宮金次郎が農民出身ながら業績を上げたのは四書のほか「算数」を行灯をともして読んだからである。読書を聞かれて「僕は雑学ですよ。特別のものはない」(昔の政治経済、国際関係ーそういう本を読むと)。社会部記者は「博く浅い知識を持て」と教えられたのでそれを実行した。今年、私が感銘した本は佐藤優の「国家の罠」桶谷秀昭の「昭和の精神史」である。テレビについて「僕が見るのは、NHKであれば、娯楽の方はスポーツだね。それから解説。一番見るのは3チャンネル(教育放送)ですよ。ましてやね、民間放送なんて見ないわ。第一見たら腹立ってくる」同感である。私はニュースとスポーツを見る。とりわけラグビーが好きである。もっとラグビーの試合の放送番組を増やしてほしい。
 靖国神社参拝について「いわゆる一般の参拝客と同じ形で僕は行ってるんですよ」という。私は月に必ず一度はいく。同期生12人を始め先輩が多く祭られている。海外派兵(自衛隊のイラク派遣そのものに反対かと聞かれて)「この戦そのものがね、間違ったと思いますね」国際法上戦争は「侵攻」か「自衛」しかない。間違っているかどうかはその国に「解釈決定権」がある。その国が大義があるといえば大義がある。私は自衛隊のイラク派遣を支持する。
 国民について(小泉首相へのアドバイスを請われて)「国民はね、賢いよ。すべてお見通しだよ。ということを言いたいな。うん」総選挙に示される国民の審判を見るとそのことが言える。日本国民は実に賢明である。
 平和主義について(「この国をどうするか」について語ってほしいと言われて)「戦後60年の間ですね、日本の自衛隊によってですね、他国の人間をころしたこと、ないんですよ。それからまた他国の軍隊によって日本人が殺されたこともない。先進国でこんな国はね、日本だけですよ。これは本当にね、誇るべきことだと思う。まさに平和主義のいいところなんですよ。これだけはやはりね。あたまのなかにおいて政治の運営をやってもらいたい」これが本書の結論であり、後藤田正晴さんの遺言である。

(柳 路夫)

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