2005年(平成17年)8月10日号

No.296

銀座一丁目新聞

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安全地帯(118)

信濃 太郎

 相手の発表の自由を与えよ

 民主主義のよさは例え、気に食わぬ発言・発表であってもその機会を与えることである。戦後教育で育った若者達は十分「表現の自由」を心得ていると思っていた。必ずしもそうでないのを朝日新聞の社説で知った(7月15日)。船橋市の市立の図書館で4年前にベテランの司書が107冊の本を廃棄処分にした。「新しい歴史教科書をつくる会」の役員や評論家の西部邁さん、渡部昇一さんら15人が書いた本である。これらの本は何れも本を処分する廃棄基準に違反するものであった。司書は「つくる会」や賛同する人達への反感から独断でこれらの本を処分した。司書は給与の十分の一の減俸6ヵ月の処分を受けた。もちろん裁判も起こされた。原告団は憲法19条(思想及び良心の自由)、21条(集会。結社・表現の自由・通信の秘密)、13条(個人の尊重)、14条(法の下の平等)23条(学問の自由)及び名誉毀損・人格権などのの侵害を理由に損害賠償請求の提訴がなされた。平成15年9月9日に第一審判決が出された。判決はこの事件を図書館のない部の管理問題にとどめて司書の犯罪を認めても著者への権利侵害まで問いえないとして原告の請求を棄却した。第二審も一審の基本を踏襲し、著者への人格侵害を認めなかった。ところが最高裁は7月14日原判決を破棄高裁差し戻しの判決を下した。「図書館における著作者の人格権」が認められ手原告側の事実上の勝訴であった(裁判の経過は「正論」9月号西尾幹二さんの論文による)。朝日新聞の社説は言う。「この裁判を起こした『つくる会』の教科書について朝日新聞は社説で『近現代史を日本に都合よく見せようとする歴史観で貫かれ教室で使うにはふさわしくない』と主張してきた。だからといって、会の関係者の著作が図書館から消えていいとは思わない」。その言やよし。これからこのような事件、問題が起こりそうな気がする。靖国神社参拝問題、教育基本法改正問題、憲法改正問題など国民の意見が分かれるものがたくさんある。たとへ相手の意見がが気に食わなくても発言させる自由だけは与えるのは当然である。

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