2005年(平成17年)3月10日号

No.281

銀座一丁目新聞

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花ある風景(195)

並木 徹

いざさらば雪見にころぶところまで 芭蕉

 東京地方の4日の雪は3月としては7年ぶりの積雪であった。大手町で2センチの積雪があった。今シーズン雪が降った日数は11日で平年より上回る。雪は月、花と並んで詩想・詩境が触発される冬の風物である。この日の雪は水っぽく春を思わせれものがあった。雪がやむとともに私は玄関先の雪かきである。久保田万太郎に「雪掻いている音ありしねざめかな」の句があった。そのような情緒はない。しいて作れば「春の朝積雪2糎囹圄の人」。おごる平家久しからずとはよく言ったものである。前日、コクドの堤義明さんが捕まっている。
 見出しの芭蕉の句ははじめは「いざ行む・・・」であったという。ものの本には「いざさらば」という少しもったいぶった口調に「ころぶ」という言葉のあしらいが俳諧の味をかもし出しているとある。中西進著「狂の精神史」(講談社)には芭蕉のこの句を基として「いざさらばまろめし雪と身をなして浮き世の中をころげありなん」の狂歌を紹介している。この歌心は「浮世を雪だるまの如くころげ回ろう」というところにある。この自由な精神は羨ましい。宿屋飯盛(石川雅望・江戸後期の国学者・狂歌師)にいい狂歌がある。「歌よみは下手こそよけれあまつちの動き出してたまるものかは」
 「銀座俳句道場」も今年で5年目を迎える。同人達は上手くなった。正直いってこちらは別にそれほど上手になっていただこうなど思っていなかった。俳句を自由気ままに作っていたければと念じていた。望外の喜びである。1月の兼題で「天」に入賞した陽湖さんは私がスポニチ社長時代に作った「スポニチ・マドンナ100」のメンバーの一人である。その句は「初春や術後五年目への余白」であった。私は「余白」の使い方が絶妙だと思った。今体調を崩されて入院されているが一刻はやい回復を願わざるを得ない。「幾たびも雪の深さをたづねけり」(正岡子規)の心境がよくわかる。

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