2005年(平成17年)1月10日号

No.275

銀座一丁目新聞

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安全地帯(97)

信濃 太郎

奈良女児殺害事件に思う
 

 奈良市の小学1年生の女児が下校中に誘拐され〈昨年11月17日)、奈良県平群町の造成地で遺体で見つかった事件で毎日新聞の販売店の従業員(36)が捕まった〈昨年12月30日)。この事件を企業と広報の観点から見てみたい。
  容疑者逮捕とともに毎日新聞は一段で「痛恨の極み、管理強化指導」の見出しで社長室広報担当者の談話を掲載した。テレビには代表室長が釈明に当たった。ここで毎日新聞は大きなミスを犯している。世間は販売店が新聞社と経営が別であるなどとは思っていない。毎日新聞と同じ組織だと見ている。また販売店側から見て問題が起きた時、毎日本社がどんのような態度をとるかを常に注目している。この対応では冷たい感じを与える。
 企業広報の原則の一つは「いったん事が起きれば、指揮官は前面に立つべし」である。大阪本社の責任者、大阪代表が弁明に立たなかったのか疑問に思う。最高責任者が出ればベターであった。
 広報担当者の談話を紹介する。「このような卑劣な事件の容疑者として、毎日新聞と取引のある販売所の従業員が逮捕されたことは、当社にとって痛恨の極みであります。被害者のご冥福を改めてお祈りするとともに、ご遺族に対して心からお悔やみもうしあげます。当社としては、事実関係の確認を急ぎ販売所に対して人事管理をさらに強化する指導していきます」
 この談話では販売所は別組織で、取引先に過ぎません。だからあまり責任はありませんという意志が感じられる。新聞にとって「部数は力」で、販売は編集とともに経営の要である。その部数を伸ばすのは販売所である。不離不即の関係にある。いわば身内である。そこで不祥事を起こした。外部に対して全面的に謝罪しなければならない事件である。容疑者が前に読売新聞にいたとかその前は朝日新聞にいたかは問題にならない。こんな事例がある。鎮痛抗炎症剤タイレノールに青酸カリが混入され、8人が死亡する事件が起きた(1982年9月・シカゴ)。調べると製品出荷後、何者かがカプセルを開き、毒物を入れた事が判明、カリフォルニアでも毒入りタイレノールが見つかった。製造元の会社には何の罪もないのだが、この会社は直ちに全米のタイレノールを回収、廃棄処分にするとともに、この事実を全てのマスメディアの協力を得て公表、消費者に注意を呼びかけた。同時にタイレノールのパッケージをいたずらがすぐわかるように透明の三重シールに変更した。この変更を徹底的にPR、トップのテレビ出演などマスコミ対応に費やした費用の金額は合計数十億ドルにのぼった。同業者の間では同社の再起は不能と噂されたが、マスメディアを活用した社会への訴えと消費者への対策優先の姿勢が従前より企業の存在をPRしたことになり、売上は事件後に伸びたという(山崎宗次著「広報力」・講談社)。もしこの会社のトップが「会社には責任がない犯人が悪いのだ」と何の対策も立てなかったらこの企業はどうなったかわからない。トップの姿勢でその企業の命運が決まるということである。毎日新聞よ、心せよ。

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