2004年(平成16年)10月10日号

No.266

銀座一丁目新聞

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安全地帯(88)

信濃 太郎

三十一音 いのちの歌
 

  「一日中 言葉なき身の 淋しさよ 君知り給え われも人の子」(9月20日敬老の日にNHK総合テレビで放映)。この歌が気になって仕方がない。私を叱責しているように思える。これといった大病を患ったことがないので病人に対する気配りが下手である。80近くになっても元気で歩き回っているため介護老人に対するいたわりも希薄である。
 「淋しさよ・・・」と歌った老女の発音は余り明瞭ではなかった。だが、凛としていた。歌の響きが心にぐさりとくる。研ぎ澄まされたその感性に脱帽する。歌はその人の生き方をそのまま映し出す。介護施設の人々が歌の会を定期的に開き、お互いに歌を披露しあい、生き生きしている様子には勇気付けられる。歌の会誌まで出している。
 歌の良さをいまさまながらに教えてくれたのは和歌山県花園村の元村長、部矢敏三さんであった。「何も彼も山越えて来るわが村よたとえば鰯雲もあなたも」このように自由に、おおらかに良く歌えるものだと感心した。
 今回は「NHK俳壇」で知り合ったNHKエデュケーショナルのプロデューサー笹山麻衣さんが「三十一音いのち歌」の番組を知らせてきてくれた。いまは短歌より俳句に精を出しているのだが、勉強のために拝見した。その中で延岡市島浦町で2000人の赤ん坊を取り上げた井戸口スミさん(92)が目にとまった。「戦の空襲警報おらぶ中産家に急ぎし助産婦われ」30代の時のことを歌ったものである。語彙が豊かなのは羨ましい。夫より55歳も生きている96歳の酒井ミキさんは「あの世にいけば何とおっしゃる」とユーモラスに歌う。デアケアーを受ける前に薄化粧をするという。96歳も女なのです。心打たれた番組であった。

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