2004年(平成16年)3月1日号

No.244

銀座一丁目新聞

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追悼録(159)

金子みすずの詩を口ずさむ

  童謡詩人、金子みすずは昭和5年3月10日、離婚話が進んでいる夫が娘を連れに来る前夜に睡眠薬を飲んで自殺した。享年26歳であった。最後の詩は「きりぎりすの山登り」であった。詩の中には「お星のもとへも、行かれるぞ」の言葉がある。みすずの不幸な結婚は大正15年2月17日である。その前に姉の結婚に反対する弟の正祐の追及に「好きな人はいるのよ。その人は黒い着物を着て長い鎌を持った人なの」と答えている。アイスランドには黒いドレスを着た幽霊の伝説がある。西洋では死神である。とすればみすずの死への誘惑は5年も前から漠然とあったといえる。あこがれていた西條八十に「お魚」と「打ち出の小槌」で認められたのが大正12年である。花の命は短かった。
 演劇集団 円 公演、演出、小森美巳「私の金子みすず」(2月21日・ステージ円)での金子みすず(高橋理恵子)の詩の朗読・歌を聴いていると、心がすいよせられる。正祐役の吉見一豊の日記の朗読が上手いのか、小森壮創介、瑞木健太郎、林真里花、熊取谷正樹のギター、ピアノの音楽がよかったのか、時間がたつのを忘れた。戦争中、新潟の捕虜収容所で捕虜生活を送ったカナダ軍人が「詩のポケットブック」が狂気の世界にあって健全な精神 を保つのにどれほど役に立ったことかと、その著書の中で書いている(ケネス・カンボン著「ゲストオブヒロヒト」訳森正昭)。さしずめ金子みすずの詩はこれに当てはまるであろう。優れた詩は人々にさまざまな影響を与える。詩はその人が苦境や逆境にあるほど心に響く。好きなみすずの「日の光」でも口ずさんでみるか。

(柳 路夫)

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