2004年(平成16年)2月20日号

No.243

銀座一丁目新聞

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茶説

なおもケイタイ文化革命進行中

牧念人 悠々

 監督・原作yosiの映画「Deep love」−アユの物語−の試写をみた(2月12日。渋谷東映)。観客は女子高校生が多かった。一年前この欄(昨年2月1日号茶説)でこう書いた。「一人の塾の講師が書いた本が女子高校生の間でブームを起こしている。内容は援助交際を赤裸々につづり、愛に目覚めながらもエイズで死んでゆくもの」あれから一年、原作へのアクセス数は200万人から2000万人、単行本は7万部から160万になっている。これは驚くべき現象である。著者が意図した「愛で救えないものはない」のメッセージは十分伝わったのはもちろんだが、ケイタイ文学が高校生に親しまれ、ケイタイでやり取りする文章に変化をもたらした。また若者達の話言葉がそのままメールで取り交わされる。言文一致運動が若者から起きている(「バカの壁」の著者、養老 孟司さんの表現)。まさにケイタイ文化革命である。映画はさらにこの革命を推進するであろう。
 おばあちゃん役の風見章子がいう「あのころは、力がすべて・・・力さへあれば何でも出来た。今はそれがお金に代わっただけ・・・」のセリフは胸につきささる。万事が金の世の中になった。「でもお金のほうがもっとずっと怖い。気づかないうちに誰もが蝕まれてゆくから・・・」この言葉に主人公ユキ(重泉充香)が少しずつ変化してゆく。何事にも無表情で通すユキの顔にも愛に目覚めてゆく嬉しさがくみ取れるようになる。
 友情出演の竹中直人の役柄はユキと友人のレイナ(藤田祥子)の二人を相手にして援助交際をするものだが、うまい。値切り方も堂に入っている。ユキの純愛の相手、義之の父親役の本田博太郎はニヒルで身を持ち崩している雰囲気をよく出していた。居酒屋の店長役の黒田アーサーとともに映画の土台を形作り、しっかりと支えていると感じた。
 おばあちゃんの「悲しい時にも嬉しい時にも空を見上げてごんなさい」とはいい言葉だ。ユキと義之(古屋敬多)を強く結びつけたのもこの言葉であるし、胸の悪い義之を飛行機で沖縄に連れ出したのもこの言葉が心の奥にあったからであろう。二人のプレゼントの交換の橋渡しの役を果たした犬のパオはほほえましかった。エンデンイングの川島あいの歌は心にしみた。
 原作を読んでいない観客にはわかりにくかったという声も聞かれたが、「人は過ちを犯す生き物」という監督がはじめて世に問うた映画である。若者達が「深い愛」を己に問うて欲しいと願う。意外と大化けする映画になるかもしれない。4月3日から全国公開される。

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