2004年(平成16年)2月20日号

No.243

銀座一丁目新聞

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競馬徒然草(6)

―映画「シービスケット」― 

  アメリカ映画「シービスケット」が話題になっている。早くも、本年度のアカデミー賞有力候補に挙げられている。原作は「あるアメリカ競走馬の伝説」というサブタイトルがついたドキュメント(ローラ・ヒレンブランド著)で、日本でも翻訳・出版されている。昨年の本欄でも紹介されているので、ご記憶の人も多いだろう。原作が長編なので、映画ではかなり省略されている部分があるが、やむを得ないところだ。詳しく知りたい人には、併せて原作を読むことをお勧めしたい。
 1930年代のアメリカ。大恐慌に見舞われ、人々は苦しい生活に喘いでいる。そんな時代に、1頭の馬に出会った3人の男(馬主、調教師、騎手)が、その小さく貧弱な馬(シービスケット)を、強い馬に仕上げていく。レースに出走できるようになった馬は、声援に応えて勝ち始める。そして過酷な日々を生きる人々に希望と勇気を与え、時代のヒーローとして熱狂的な人気を得るに至る。最大の見せ場は3冠馬ウォーアドミラルとのマッチレースで、遂にこれを破る。ここに至るまでには、騎手も馬も重傷を負うなど、幾多の波乱がある。それを乗り越えていくドラマが、人々を感動させる。
 迫力があるのはレースのシーンで、さすがはアメリカ映画と唸らせる。日本ではとてもあれほどのシーンは撮れないだろう。騎手を演じる俳優のトレーニングも、過酷なものであったようだ。その成果があって、現役の騎手から、「本物の一流ジョッキーに見える」と絶賛されたという。さらに、負傷した騎手の乗り替わり役に扮するのが、なんと現役の有名騎手。そのスティーヴンス騎手といえば、ケンタッキーダービー3勝の実力派ジョッキーで、91年のジャパンカップをゴールデンフェザントで優勝している。世紀のマッチレースのシーンが素晴らしいのも頷ける。
 レースシーンが迫力あるものとなっているのには、カメラワークのよさも挙げられる。さすがはアメリカ映画と思わせる。日本ではとてもあれほどのシーンは撮れないだろう。アメリカ映画ならではと感じさせたものの1つは、レース中における騎手の乱暴極まりない妨害行為。隣の馬の騎手を鞭で何度も叩く。また、外側の騎手が内側の馬の騎手に鞭を振るい、馬を内ラチに押し付けて落馬させる。荒っぽい妨害行為だが、1930年代のアメリカのレースでは、実際にあったようだ。過去の事実としても、映画に再現してみせたことも興味深い。
 かつて日本の競馬で、あのような騎手の妨害行為が行なわれたこともあるのか、なかったのか、定かではない。だが、仮にあったとしても不思議はない。映画が勝負の厳しさを、改めて思い知らせる。それはともかくとして、映画「シービスケット」は、さまざまな苦難にめげなかったことで、「感動」という名の不思議な力を与えるようである。

( 新倉 弘久)

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