競馬徒然草(35)
―自分のリズム(ペース)―
今年を回顧する場合、外国馬を迎えての2つのレースは面白いレースだった。記録にも残るだろう。11月29日のジャパンカップダート(東京、ダート2100メートル)と、翌30日のジャパンカップ(東京、芝2400メートル)。生憎の雨で馬場が悪かったが、それならではのレースが繰り広げられて、ファンを興奮させた。
ジャパンカップダート(JCD)のほうは、たっぷり水を含んだダートの不良馬場。泥水の飛沫を撥ね上げながらの熱戦。タフなレースで、通常のダート戦とは異なる様相を見せた。ゴール前の直線200メートルでは、米国馬のフリートストリートダンサー(コート騎手、11番人気)と日本のアドマイヤドン(安藤勝騎手、1番人気)が後続馬を大きく離し、マッチレースとなった。アドマイヤドンが追い詰め、一旦は交わしたが、ゴール寸前では差し返された。写真判定のハナ差は、4センチだった。
翌日のジャパンカップ(JC)は、芝の重馬場で行なわれた。馬場が悪くなったことで、こちらもレースの様相が一変した。重馬場得意の先行馬が有利と分かっていたが、タップダンスシチー(佐藤哲騎手、4番人気)の独走には、ファンも度肝を抜かれた。2番手を追走したザッツプレンティ(安藤勝騎手、5番人気)が、そのまま2着に入ったが、9馬身差をつけられた。1番人気のシンボリクリスエス(ペリエ騎手)は中団から脚を伸ばしたものの、3着にとどまった。雨に泣いたといえる。
それにしても、タップダンスシチーの逃げ作戦は見事だった。重馬場得意に加え、最短距離を走れる1番枠に恵まれたことも幸いした。スタートよく飛び出すと、そのままマイペースで逃げ切った。JCはとかくペースがスローになりやすいが、スローには落とさず、あくまでもマイペースを守った。「とにかく気分よく走りたい。この馬のリズムで走りたい」と、佐藤哲騎手は語っていたが、その通りに走った。2500メートルぐらいまでがベストのこの馬が、2400メートルのレースを選んだのも、この馬のリズムを守る上で成功した。次走の予定は、12月28日の有馬記念(中山・芝2500メートル)。今度は他馬も楽な逃げを許すはずもないが、それでもなお、マイペースを守るだろう。
考えてみれば、今回のタップダンスシチーのレースは、自分のリズム(ペース)を守ることの大切さを示している点で、人間の学ぶべき教訓を示唆している。共感して声援を送るファンも増えるだろう。「たかが競馬、されど競馬」―である。 (戸明 英一) |