2003年(平成15年)12月10日号

No.236

銀座一丁目新聞

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花ある風景(150)

並木 徹

菊池寛賞贈呈式に感あり

  渡辺淳一さんが菊池寛賞(51回)を頂くというので贈呈式に出席した(12月5日・ホテルオークラ)。受賞の理由は「医学小説から歴史小説、恋愛小説(男女小説の誤まりか)にいたる幅広い作品群、また最近作『エ・アロール』で老人問題に取り組むなど、時代の抱えるテーマに果敢に挑みながら、常に多くの読者を獲得してきた旺盛な作家活動に対して」というのである。
 和服姿の渡辺さんは「大きく豊で、すべてをのみこんでゆるぎない菊池寛の名前の賞を頂いてうれしくおもっている。この賞があがりではなく、これからも生々しく、あやしい小説を書いてゆきたい」と挨拶をした。作家の林真理子さんは授賞の喜びのメッセージとして一文を寄せている。「ある時先生は私に『作家にとっていちばんむつかしいくて面白いのは、男と女の情痴を書くことだね』とおっしゃったことがあり、それは私の大きな指針となっております」。
 この他沢木耕太郎さん、紀伊国屋ホール、長岡輝子さん、雑誌「国華」、夢路いとし・喜味こいしが授賞した。悦びには溢れ華やいだ雰囲気はとてもよかった。私はもう46年も前になるが、毎日新聞社会部がキャンペーン「白い手・黄色い手」「官僚ニッポン」で菊池寛賞を受賞したことを思い浮かべた(昭和32年3月13日・第五回)。新聞社が授賞するのは初めてで、三原信一社会部長とともに誇らしげにし出席した。当時の文芸春秋の佐々木茂索社長がパーテーで「ねずみが猫に賞をおくったようなものだが喜んで貰って嬉しい」とユーモラスな挨拶をされた事を思い出す。
 この日渡辺さんはパーテーの席では雑談ながら「不能になってゆく男が若い女に振り回される姿も材料になるね」とはなしていた。小説への思いは衰えを知らないようである。

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