「かもかのおっちゃん」などで知られる浪速の女流作家・田辺聖子さんの作品はどれも面白いが、その中でも特に姥シリーズが傑作で、愛読書というよりも我が老後の理想のバイブルと言えよう。
主人公は老いてますます魅力的な77歳の歌子さん。三人の息子の心配や忠言をよそに、マンションで悠々自適の一人暮らし。歌子さんが何より嫌いなのは世の中の常識の枠に押し込まれること。いい年して世間体が悪い、などと言われて行動を非難されること。
甘やかすばかりで子供に権威のない不甲斐ない親や、挨拶もろくに出来ない今時の若者に腹を立てて血圧を高くしている。息子やそのお嫁さんたちと丁丁発止とやるところは、面白すぎて乗り物の中では笑いを堪えるのに苦労するほど。ニヤリとしたい場面が多々出てくる。
大分以前にテレビの単発ドラマで、この歌子さん役を京マチ子さんが演じていたが、お洒落でおせっかいで口が達者で、何とも憎めない歌子さん像であった。
この本に出会った頃は、まだ自分では中高年の域で老後は程遠いと感じていたが、10数年はあっという間に過ぎて早や年金を貰える歳になった。より歌子さんに近づいてみて、ますます勇気づけられている。
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