2003年(平成15年)10月1日号

No.229

銀座一丁目新聞

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お耳を拝借(85)

「秋の夜長」

芹澤 かずこ

 

 起きているときは少しも気にならないのに、床に着くと虫の声がやたらと耳について眠りを妨げられることがある。
リーン、リーンと鳴く鈴虫ならまだしも、ガチャガチャと鳴きたてる轡(くつわ)虫は風情を通り越して本当にやかましい。どこかに移動してくれないものかと思うに、なにが気に入ったのか居続けで、それも一匹どころか団体で鳴くのだからたまったものではない。
あんなに鳴き通しで疲れないのかしら、と却ってこちらが気を揉んでしまう。すると、こちらの気持ちを察したかのようにピタリと鳴き止むことがある。
ヤレヤレと思いながらも、何処かへ行ったのだろうかと気になって、つい耳を澄ませてしまう。すると又もやこちらの気持ちを推し測るかのように鳴き始める。
 鳴き止むのも、鳴き始めるのも一糸の乱れもない。まるで誰かがタクトを振っているようなのだ。一匹ならともかく数匹であんなにピタリといくなんて不思議でならない。いつか乱れるのではないかと変に目が冴えてしまって、知らぬ間に眠りにつくまで、毎晩この格闘が続いていたが、ある日を境に鳴き声が聞こえなくなった。こうなると変に寂しいものである。



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