安全地帯(53)
男振り山に残して夏たける (竹内善昭)
−信濃太郎−
毎日新聞社会部の同人、竹内善昭さんから手作りの「句集」が送られてきた。俳句を勉強していると聞いていたが俳句らしい俳句になっており、感心した。
初鰹吊す男の腕太し
新鮮なうえ身がたっぷりある初鰹を思わせる。初鰹と太い腕の対比が見事である。深層心理的に言うと、若さを羨んでいる句ともいえる。
べた貼りの孫の手作り紙幟
ほほえましく素直な句である。それだけに心地よく響く。俳句は何でも詠いあげることができる。頂いた手紙にはこんな事が書いてあった。「先日孫達が夏の休みにやってきました(怪獣いっぱいつれて)。大声で頭が痛くなるのでこちらは早々の二階にあがってしまい、食事から何から一切丸投げされて女房もダウン寸前でした」。5月には素晴らしい歌心をしめした男が8月には「おじいさんの役割」を放棄するとは情けない ?? 年を考えれば当然か。
朝涼しもうひと眠り共白髪
子供達も独立し、夫婦だけでくつろげる日々となった。その感じがよく出ている。仲の良い夫婦なのであろう。
小さくとも凛と信濃の水芭蕉
水芭蕉は作者自身である。地下に大きな根を張り、見事に白い花を咲かせるその様は、自信に満ち溢れて仕事をしてきた男そのものである。「凛と」の表現が句を貫いている。
流されつなお前へ跳ぶあめんぼう
ふとしたる仏心かすめ蚊を払う
常に前向きに生き、思いやりのある作者ならではの句である。
蝉しぐれ武寮の丘に聞きし過去
竹内さんは東京幼年学校47期生である。その武寮は戸山台にあった。3年生の夏、敗戦を迎えた。蝉しぐれれを聞いていると、作者は戸山が原の蝉しぐれを思い出す。学科、教練、軍歌演習、号令調整に励んだ事が走馬灯のように浮かぶ。「戦中をアルバムに閉じ蝉しぐれ」の句もある。その過去があるから今日があり、未来がある。 |