2003年(平成15年)8月20日号

No.225

銀座一丁目新聞

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安全地帯(53)

男振り山に残して夏たける   (竹内善昭)

信濃太郎

 毎日新聞社会部の同人、竹内善昭さんから手作りの「句集」が送られてきた。俳句を勉強していると聞いていたが俳句らしい俳句になっており、感心した。

  初鰹吊す男の腕太し

 新鮮なうえ身がたっぷりある初鰹を思わせる。初鰹と太い腕の対比が見事である。深層心理的に言うと、若さを羨んでいる句ともいえる。

  べた貼りの孫の手作り紙幟

 ほほえましく素直な句である。それだけに心地よく響く。俳句は何でも詠いあげることができる。頂いた手紙にはこんな事が書いてあった。「先日孫達が夏の休みにやってきました(怪獣いっぱいつれて)。大声で頭が痛くなるのでこちらは早々の二階にあがってしまい、食事から何から一切丸投げされて女房もダウン寸前でした」。5月には素晴らしい歌心をしめした男が8月には「おじいさんの役割」を放棄するとは情けない ?? 年を考えれば当然か。

  朝涼しもうひと眠り共白髪

 子供達も独立し、夫婦だけでくつろげる日々となった。その感じがよく出ている。仲の良い夫婦なのであろう。

  小さくとも凛と信濃の水芭蕉

 水芭蕉は作者自身である。地下に大きな根を張り、見事に白い花を咲かせるその様は、自信に満ち溢れて仕事をしてきた男そのものである。「凛と」の表現が句を貫いている。

  流されつなお前へ跳ぶあめんぼう
  ふとしたる仏心かすめ蚊を払う

 常に前向きに生き、思いやりのある作者ならではの句である。

  蝉しぐれ武寮の丘に聞きし過去

 竹内さんは東京幼年学校47期生である。その武寮は戸山台にあった。3年生の夏、敗戦を迎えた。蝉しぐれれを聞いていると、作者は戸山が原の蝉しぐれを思い出す。学科、教練、軍歌演習、号令調整に励んだ事が走馬灯のように浮かぶ。「戦中をアルバムに閉じ蝉しぐれ」の句もある。その過去があるから今日があり、未来がある。

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