競馬徒然草(21)
−個性・特性−
個性や特性。人それぞれにあるが、馬にもある。改めてそのことを感じさせたのは、ビリーヴ(牝5)だ。7月6日の函館スプリントステークス(1200メートル)に勝った。4コーナーで先頭に立つと、そのまま鮮やかに逃げ切った(1分09秒3)。3週間前の高松宮記念(中京、芝1200)にも勝っており、1200の距離を最も得意にしている。というだけでは、「単なる短距離のスピード馬」と受け取られそうだ。だが、そうではない。このビリーヴの場合、距離が延びると、真価を発揮できない。1400や1600となると、もう踏ん張れない。しかも、勝つのは坂のない平坦コースに限られる。レースでのこの傾向は際立っている。これは個性・特性というべきものだろう。
一般に馬の能力を考える上で、その1つに距離適性というのがあり、短距離馬、中距離馬、長距離馬などと分ける。ビリーヴなどは短距離馬になるが、単に短距離馬というだけでは、捉えられないものがある。その意味では、極めて条件の付く馬だ。もっとも、レースでの予想はつきやすい。距離やコースで判断できやすいからだ。ところが、これほどの特性を持った馬は少ないから、一般的にレースの予想も難しくなる。それはさておいて、馬の特性を、脚質の点から分ける方法もある。逃げ・先行・差し・追い込み、といった分け方だ。だが、際立った特徴を見せる馬は少ない。格別の個性や特性を持った馬が、最近は減ったような気がする。
馬の中には気性の捉えにくい馬もいて、「癖馬」などと言われる。騎手も御しにくいのだが、これなども個性といっていいだろう。最近は少なくなったが、以前はしばしばお目にかかったものだ。随分昔のことだが、極め付きの「癖馬」がいた。人気になったときは勝たず、人気のないときに、しばしば勝って穴をあけた。「馬が新聞の予想を読み、人気を嘲笑ったのだ」と、思えたほどだ。秋の天皇賞にも勝ったほどだから、強い馬でもあった。そんな個性派も、昔はいた。
ところで、人間の場合はどうだろうか。個性が重んじられる時代といわれるが、大勢順応型が支配的だ。こうした傾向の人は、競馬ファンにも多い。人気馬を買えば安心するという。だが、一方では、これに背を向けるファンもいて、しばしば穴を狙う。隠されている個性・能力を捜し求め、それに期待をかける。考えてみれば、こうしたことは、競馬という遊びの世界でしか試みられないようだ。個性について、あなたはどう考えるだろうか。 (戸明 英一) |