花ある風景(136)
並木 徹
上野動物園の吟行記
現代俳句協会湯島教室の吟行に誘われた(7月11日)。場所は上野動物園。40年振りである。吟行は初めてである。12時50分までに5句提出することになっている。参考のため持参したのは角川書店編「俳句歳時記」夏の部(第3版)と小田島雄志著「駄ジャレの流儀」(講談社文庫)。2冊の本を角封筒に入れた。いでたちはゴルフ帽にサングラスである。午前10時集合というのに50分も前に着いた。ハトに餌を撒いている老人がいる。いかにも楽しげで、手馴れた手つきをしている。聞くと、15年前に建設省を定年退職して今は悠々自適の身。2年前に奥さんを亡くして定期的に動物園にきて時間つぶしをしているという。
開園は9時半。爆竹の音が鳴って開園。こ一時間も前から待っていた修学旅行生の一団が入園する。そこでまず一句、角封筒に書き留める。「梅雨晴れ間ZOOは爆竹で開園す」正面で銀座俳句道場の同人である今尾方江さんと山本洋光さんと会う。この他吉田邦幸さんも来ていた。山本さんと吉田さんは初対面である。今尾さんは京都の人で、東山動物園に行き、予行演習をしてきたという。今は俳句が生きがいである。その熱心さには頭が下がる。「緑濃し触れれば指の染まる程」の句をものにした。
入場料は半額の300円。昨年3月までは無料であった。参加者の句に「半額で視る麦秋のゴリラの背」とある。雉、パンダ、アジアゾウ、日本サルとみる。「梅雨晴れ間ボスザルは居ます岩の上」と「頂きにボスザルは居ます梅雨晴れ間」を書く。山本さんは「猿山のボスを見ているサングラス」と記す。私のことかもしれない。トラ、ゴリラ園へ。森林伐採でゴリラは「消えてゆく運命」にあるという。ゴリラの句は出来なかった。「梅雨晴れ間マリとたわむるアムールトラ」とする。見学すること一時間余、こもれびの小径近くで休憩していると、主宰者の寺井谷子さんに扇子を貸していただく。扇子も夏の季語である。考えたが句は浮かばなかった。7月8日福岡から引っ越してきたばかりだという西沢繁子さんが「カバを見たい。どなたか行きませんか」と誘う。今尾さんとともに行く。不忍池の蓮が見事であった。「不忍池浮き葉の蓮よみがえる」とした。西澤さんは「蓮浮き葉群れて不忍たゆたえり」と詠む。今尾さんは「花にそい梅雨の晴れ間の忍び逢い」と披露。寺井さんから「誰と歩いたのですか」と質問される。リベリア産のこびとカバは可憐で、説明には「名前はアヤメ」とあった。そのまま「こびとカバ名はアヤメです梅雨晴れ間」とした。
参加者21名。集められた句105句。読み返してみると、すごい句がある。「無頼とも違う七月のゴリラの目」(青木栄子)「頑にゴリラ背を見す梅雨晴れ間」(寺井谷子)「夏帽の子がまろびくる象の前」(森たかこ)・・・吟行は私には難しく、己の未熟さをつくづくと知る。それでも楽しかった。
懇親会での寺井さんの話が胸に響いた。「俳句は人と人の絆を深め、人を癒し、浄化し、励ます。俳句を始めて僅かであるのに、会うごとに顔の輝きがましている人がいる。なによりも俳人は寡黙であるのがいい」 |