競馬徒然草(13)
−東京競馬場の榎−
選東京競馬場には、池がある。競馬ファンでも知らない人が多いだろう。競馬場へは出かけても、レースを見るのと馬券を買うのに忙しく、そんな余裕などない人が多いようだ。ましてや、テレビでしか競馬を見ない人は、何もご存じないだろう。池のあるあたりは、競馬場のガイドマップには「日本庭園」とある。場所はパドックの北側、石段を下りた一画である。池に面して東屋風の憩いの場所もある。池は瓢箪池で、周りには木々が生い茂っている。欅はもちろんだが桜も多く、知る人ぞ知る桜の名所でもある。花見の時期には、花見客も多い。競馬を開催していないときでも、花見客のために開放されている。
日本庭園と池の話から始めたが、池が埋め立てられる、と聞いていたからだ。競馬場の工事は大々的なもので、馬場の改修だけではなかった。スタンドの改築や新館の建設。さらにパドックや、その周辺の改造にまで及んだ。その工事の際に、池の埋め立ても聞かされていた。だから、そのことを確かめるために、見に行ったのだ。池は残っていた。埋め立てられずにすんだ。それはいいのだが、散策路からの眺めはいささか変わった。「木は一本も切らない」と聞いていたが、姿を消した木も少なくない。例えば、斜面に植えられていた梅。25本あったのが、そっくりなくなった。斜面そのものが削られ、洋風の花が植えられている。これでは、「日本庭園」の名が泣くというものだ。今流行りのガーデニングとやらのつもりかもしれないが、梅の木は残してもよかったのではあるまいか。梅は紅梅で、例年1月の初めには、可憐な花を咲かせていたものだ。
パドックの石段脇にあった欅も切られた。代わりにというわけだろうが、その近くに榎が植えられた。榎は昔から信仰に関係があり、神社の神木になっているものもある。また、昔は道の一里塚にも植えられた。その意味では、新たに植えられた榎も、無事な競馬を願う意図によるものかもしれない。ところで榎といえば、競馬場には昔から1本の榎の大木がある。そのことを殆どの人が知らない。3コーナーの内側に繁っている。あれを欅と思い込んでいる人が多く、実況放送をするアナウンサーも、「大欅の向こうを」などと、「大欅」を連呼している。実は、あれは欅ではなく、榎の大木である。枝振りからも欅でないのは分かるはずだが、疑問を抱く人もいなかったわけだ。そのため長い間、間違えられてきた。あえて言うこともないと黙ってきたが、この際、改めて指摘しておきたい。この話の続きは、次の機会にでも・・・。(戸明英一) (戸明 英一) |