2003年(平成15年)5月1日号

No.214

銀座一丁目新聞

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お耳を拝借(78)

たんぽぽの知恵

芹澤 かずこ

 

 よく晴れた風の強い日の午後、たんぽぽの綿毛がいっせいに風に乗ってふわふわと飛んで行きます。これが野原の光景なら「春だなぁ〜」と感傷に浸ってもいられますが、近隣の庭からの飛来とあっては、「風よ向きを変えて!」と念じたくもなります。
今年もまた雑草のはびこる季節になりました。取っても取っても取りきれない、あの虚しい作業の始まりです。
「いいなぁ、お隣にはたんぽぽがたくさん咲いていて。綿毛もたくさんある。どうしてあばあちゃんちのお庭にはないの?」
 2年生になって国語の授業で「たんぽぽの知恵」という文章を習っているという7歳の孫は、枯れたたんぽぽや綿毛の様子を観察したくて、雑草取りに駆り出されているママの側で大きな声を出しては「しーぃ!」と注意されて、腑に落ちない顔をしています。
 孫が暗唱してくれたその文章によると、たんぽぽの黄色い花がしぼんで黒っぽくなり、花の軸はぐったりと地面に倒れてしまいますが、でもたんぽぽは決して枯れたのではなくて、この時期に花と軸を静かに休ませて、種に栄養を与えてどんどんふとらせているのだとか。やがて花がすっかり枯れるとたくさんの種の先に綿毛が出てきて、このころになると倒れていた花の軸がまた起き上がって、まるで背伸びでもするようにぐんぐん伸びて、花の時の2,3倍の高さになるようです。その方が綿毛に風がよく当たって種を遠くまで飛ばすことが出来るから。この綿毛の一つ一つは、広げるとまるで落下傘のようになるので、晴れて風のある日に、綿毛の落下傘はいっぱいに開いて遠くまで飛んで行き、あちこちに種をまき散らして新しい仲間を増やすのです。
 種の保存とは言え自然の営みとは大したものです。たんぽぽとの知恵くらべ、勝ち目の薄いこの勝負ですが、感心して引き下がってばかりはいられません。



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