住基ネットからの離脱を表明して、一躍有名になった福島県矢祭町は意外と面白い町である。面白いというのは、しっかりした地方自治を行っている意味である。町長の姿勢はまず役場の建物に現れる。権威を誇示するため役場をすぐに新築する。ここの役場は木造二階建てで、建ててから40年もたつ。しかも町長室や議場には冷房もない。このようなところきわめて珍しい。この7月、18人いた議員を10人に減らす条例を制定した。人口7217人というから当然といえば当然だが、その当たり前のことを他の市町村がやらない。
昨年10月31日に出した「市町村合併をしない矢祭町宣言」の決議がよくできている。独立独歩「自立できる町づくり」を推進するという。久し振りに独歩独歩という言葉を聞く。この気概が日本人から消えつつある。「大領土主義は町民の幸福につながらず、地域ではぐくんできた独自の歴史、文化、伝統を守り21世紀に残れる街づくり」に励むそうだ。このような町があってもよい。しっかりした地方自治こそ国政全般の民主化の基礎である。日本の民主主義の発展のためには矢祭町のような治自体が増えるのが望ましい。
国は小規模自治体をなくし、国家財政で大きな比重を占める交付金・補助金を削減して国の財政再建に役立てるために市町村の合併を進めようとしている。平成17年3月31日までに全国3239ある市町村を1000から800に、さらには300にする大合併を進める方針である。何も画一的にやる必要はない。地方自治の本旨と財政再建の兼ね合いをよく考えるべきだと思う。
町名は永承6年(1051年)奥州12年戦争で勝利した源義家が戦勝報告のために弓矢を岩窟に納め祭りを開き、武運長久を祈ったことに由来する。上野駅から列車で約3時間、東北新幹線なら新白河駅から車で約1時間でつく。いまは鮎釣りのシーズンである。平成の太公望は自由な町民の力を信ずるかそれとも国の方針に従う道を選ぶのか、答えは明らかであろう。
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