本を読み終わっても頭から離れない言葉がある。「軍の指揮官にとって、最も重要な資質はなにかと問われれば、想像力である、と答えよう」(塩野七生著「マキアヴェッリ語録」)この資質の重要性は、何も軍の指揮官にかぎらない。いかなる職業でも想像力なしにその道で大成することは不可能だからである。-政略論-と説明があった。
政治家に人物がすくなくなったのは、この想像力を持つものがいなくなったからであろう。混迷、不透明の時代、思いもかけない出来事がつぎからつぎにおきる。
想像力を持たない人には全く対応が出来ない。何をして良いかも考えつかない。想像力豊かな人であれば、予め想定して処置できる。危機管理能力のない人が多いのもこのためである。
「想像」とは「事実がしまいこんである倉庫で、詩人と嘘つきの両者で共有する」という(A.ビアス著「悪魔の辞典)。なるほど、詩人と嘘つきはいろいろと想像をたくましくする。詩人はたしかにうまく表現する。空を見ただけで「空の彼方の空遠く幸い住むとひとのいう・・・」。この想像力が欲しい。何も両者だけの特権ではない。われわれもまた倉庫にしまいこんである事実をどしどし取り出して世間の役に立てればよい。
いま問題の田中康夫前長野知事の「脱ダム宣言」をどう捉えるか・・・。もともと田中前知事は並みの政治家ではない。知事室を一階に設け、しかもガラス張りにしたり、さらには、松本サリン事件で犯人扱いにされた河野義行さんを県の公安委員に任命したりしている。ひと昔前には、全く考えられなかった事をされる。想像力豊かな方とお見受けする。公共事業が一向に景気浮揚にもならず、無駄なことばかりしてきた経緯を知れば、ここはダム工事をやめるとともに洪水対策はちゃんとして置けばよい。治水対策はダムだけではない。これまで甘い汁を吸ってきた政、官、財の癒着を断ち切る絶好の機会である。
田中前知事に「知事にとっての敵は内と外にいる」(君主論)の言葉を贈ろう。これらの敵から身を守るのは、友人や理解者たちとの友好関係である。そして常に、よき力を持つ者は、よき友にもめぐまれるものである。友人を大切にせよと忠告したい。
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