2002年(平成14年)5月20日号

No.180

銀座一丁目新聞

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お耳を拝借(49)

-ちょっとだけ言わせて

芹澤 かずこ

 

 朝のラッシュ時にポツンと一つシルバーシートが空いていることがある。混んでいる車内だから誰か座って少しでも空間をあけて欲しいのに誰も座ろうとしない。世の中さまざまで立っているのが好きな人や、シルバーシートには絶対座らないと決めている人もいるらしい。それなら座席の前にデンと立っていないで、後ろや横の人たちに席を譲ればいいのに、自分も座らないから人も座りたくないだろうと言わぬばかりの威圧感が背中に滲み出ていて、周囲の人を圧倒している。
 そうかと思うと、横から人を押しのけてまで席を取る人もいる。また、前の席が空いたので座ろうと体を傾きかけると、特にそれが端の席だったりするとわざわざ席をずらして来て平気な顔をしている人がいる。また同じように、こちらへ席をずらして、いいところを見せようとばかり自分の前に立っている女性に席を譲る人もいる。それが自分の連れならその気持もわかるが、別の人の連れで、その譲られた人が却って立っている私に恐縮して困ったような会釈をする。その時になって、やおらこちらの存在に気がついた当の本人はバツの悪そうな顔をして目をそらす。人に席を譲りたければ自分が立って譲ればいいのに、と無性に腹が立つが指定席ではないから「いいえ、どうぞ」とばかり会釈を返しながらも気持はちっとも収まらない。
そこへゆくと外国人は女性に席を譲ってくれる。あの「どうぞ」という手付きがまた何ともいい。子供の頃から身についているのだろう。日本の男性の中にもたまにこういう紳士を見かけるが、残念なことにその数はあまり多いとはいえない。
 どうしてもという気持がないせいか席を取るのが甚だ下手であるが、中には上手な人や素早い人もいて、そういう人たちと競ってまで席取りをしたくないので、疲れていたり、ゆっくり本を読んで帰りたい時などは、必ず座れる穴場の駅を教えてもらったので、乗換に少し歩いても専らその駅を利用するようにしている。



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