2002年(平成14年)5月1日号

No.178

銀座一丁目新聞

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花ある風景(92)

 並木 徹

 演劇集団「円」の作、土屋理敬・演出、松井範雄「栗原課長の秘密基地」を見た(4月16日、東京・台東区・円ステージ)。児童文学賞をめぐるトラブルをユーモラスに描き、最後は、観客が気持ちよく納得ゆく形で終わる。よいお芝居であった。さすが「食わせ者」の土屋さんである。
 トラブルは次々に起きる。まず、「第38回きつつき児童文学賞」の佳作入選者の職業が問題となる。作品名「ママの泥パック」、作者はクマダノリコ(入江純)である。実はAV女優の南ちはるであった。児童文学の賞の受賞者が、性風俗業界の人というのはモラル的にどうかというわけである。「別に、いいんじゃない・・・」と言う人と「まずいのでは・・・」と主張する人があってもめる。ここでのやり取りの中で、「顔射女王」の言葉が飛び出す。恥ずかしながら筆者はこの言葉を知らなかった。「佳作」だから出版もされないし、雑誌にも顔写真は載せないということで決着する。
 次のトラブルは大賞の盗作騒ぎ。大賞は作品名「青い光のまち」、作者コウノシズカ(藤貴子)。第一次で落とした作品とそっくりというのである。佳作の作品を大賞に上げるにも、営業上、該当作品なしとするわけにもゆかない。皆で悪知恵を働かせる。「ミステリークラブ大賞」に八回応募して七回最終選考に残っているツワモノ、ツジコウスケ(大竹周作)に、童話を書かせることになる。江戸川乱歩も「少年探偵団」を書いている。
 コウノシズカを納得させる場面が面白い。読者代表の女性(込山順子)が説明する。ウニが小魚につつかれてそれを主人公が笑う場面を「いじめに遇っている子供が読んだらどう感じるでしょう。心情的な配慮に欠けている」という。「トビウオの背中に乗った主人公が自分の行きたい方向にトビウオの顔を向けさせるシーンは、行き先を無理やり変えさせて自分が行きたい方へ飛ばせることで、ハイジャックや航空テロを連想させる」とへ理屈をのべる。「アンコウのオナラで海が黄色に染まるのはという場面は『地下鉄サリン事件』を思い出してしまうし、最後のパーティでみんなでカレ―を作って食べるというのは『カレー毒物混入事件』を連想します」とこじつける。観客席は爆笑の渦である。
 ツジの原作「花時計の復讐」を童話作家(福井裕子)がたちまち、童話「走れ、トンちゃん」に改作する下りも味がある。トラブルごとに、授賞式がリハーサルに早変りする。最後にどんでん返しが来る。大賞は盗作ではなかった。コウノシズカが別名で出したのが、気に入らなくて書き直して今度は本名で出したのであった。これで一件落着と思ったところ、これまで何とか、穏便に事を収めようと卑屈に立ち回っていた課長(上杉陽一)が俄然男らしくなる。「きつつき賞」の大賞は該当者なしとする。しかもコウノシズカを諭す。「二本の作品を送るという弱気な姿勢が今後プロの作家としやっていくのに不安が感じられる。次回の応募を待つ」。
 秘密基地というのは、課長が子供のころ、3人の男の子で山の中に作ったもの。上級生や親にいじめられたヤツがいると、「お前はピンチだ、オレたちが守ってやる」って言って仲間にする。仲間にするための儀式がある。家庭団欒もなく、さびしい思いをしている読者代表の選考委員が子供の時一番好きであった遊びをするために、課長は「お前はピンチだ」と友情の儀式を始める。二人は右手をあわせて「コロッケ団万歳」を10回叫ぶうちに幕が下りる。筆者も大声を上げて仲間の儀式をしたくなった。

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