2002年(平成14年)4月1日号

No.175

銀座一丁目新聞

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競馬徒然草(6)

−桜の季節− 

 「春は馬車に乗ってやってくる」―。春の訪れを、そのようなメルヘンとして想い描くことのできた時代もあった。だが昨今は、慌しく、かつ世知辛い時代で、夢の泉も涸れた感がある。それでも桜の季節が訪れた。
 東京の桜の開花は、気象庁の観測史上、今年が最も早い。昨年より7日、平年より12日早いそうである。ちなみに「平年」とは、1971年から2000年までの30年間の平均をいう。ついでに気象庁の観測について触れる。全国97ヵ所の気象台、測候所の構内や付近にあるソメイヨシノの標本木を観測し、数輪の花が咲き始めると開花宣言をする。東京の場合は、気象庁に近い靖国神社のソメイヨシノを基本に観測している。なお、花は80パーセント咲くと「満開」としており、開花から満開までは約1週間と見られている。文字通り「花の命は短い」のである。
 ところで、桜といえば何を思い浮かべるだろうか。桜は昔から歌にも詠まれている。『万葉集』にも42首ある。乙女のことを桜児(さくらこ)といったようだが、乙女の美称にしても、万葉の人々の美意識のほどが窺われておもしろい。名前に桜を付けた女性もいたかもしれない。歴史上の人物では思い浮かばない。その代わり、すぐに浮かぶのは、寅さんの妹「さくら」。映画の登場人物の名前だが、あれほど親しまれた名前もないだろう。
 桜と直接の関係はないが、嬉しい便りが来るのもこの季節にふさわしい気がする。知人の若い女性から電話をもらった。何の連絡かと思ったら、それが馬券を当てたという報告。「ボックス買いで、55倍をゲットしました!」と、声を弾ませた。3000円の預金が20倍近くになって戻って来たようなものだから、喜びもひとしおだろう。それこそスズメの涙ほども利子の付かない金融情勢である。そんな暗い雰囲気をあっけらかんと吹き飛ばし、若い女性らしくひとときを愉しんでいる。そのように思われた。
 話題を変える。4月7日には、阪神で3歳牝馬のクラッシック「桜花賞」(GV、1600)が行われる。3歳牝馬にとって生涯一度の晴れ舞台。直線コースの短い、おむすび型のコース形態。逃げ・先行型が有利とされるが、余程のスピード馬でないと逃げ切りは難しい。今年は抜きん出た馬もいそうにないので、天下の形勢は波乱含み。天候や馬場状態、枠順にも大きく左右されるだろう。どの馬に勝利の女神が微笑むだろうか。女性のファンには、好きな騎手や馬の名前で買う人が少なくないが、それもいいだろう。
 阪神競馬場は桜で有名。好転に恵まれたら、家族連れの花見客も多いだろう。いまさら競馬の大衆化を言うまでもないが、若い女性までも馬券を買い、馬や騎手に男顔負けの声援を送る時代である。
 政治家や官僚のいい加減さ。政治献金、収賄といったことが改めてクローズアップされたと思ったら、「恫喝」などという、書き取りのテストにも出ないような用語まで飛び出した。そんなご時世に、花見や桜花賞を愉しむひとときがあっても悪くない。また弾んだ声の電話がかかってくるだろうか。

(宇曾裕三)

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