1999年(平成11年)7月1日

No.78

銀座一丁目新聞

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茶説

IOCに明日はない

牧念人 悠々

 IOCのサマランチさんは、たいした人物である。ソルトレークシティー冬季五輪の買収スキャンダルは遠い昔の出来事といわんばかりに、ソウルで開かれた総会(109回)では「すべてがうまくいった」と豪語した。逆にサマランチ会長を批判した人々が、苦しい立場に追いやられている。こんな馬鹿な話はない。

 2006年の冬季五輪開催地の決定経過を調べるがいい。いくらIOCが“民主的な決定だった”と宣言しても、本命だったシオン(スイス)が敗れたのは、合点がいかない。

 シオン招致の中心にいたのが、前国際スキー連盟会長、マーク・ホドラーさんである。ホドラーさんはソルトレークシティー五輪の招致疑惑の解明に熱心だった。だから他の多くの理事たちの恨みを買っていた。舞台裏でシオンはずしの謀議がおこなわれたとしても何ら不思議ではない。17票差でトリノ(イタリア)が勝ったのには、それなりの理由がある。

 五輪開催地の招致レースは、接待、プレゼント攻撃か、裏工作かによって決まるという本質は一向に変わっていない。

 だからこそ、このことをカンで知ったシオンのサポーターたちが、スイス・ローザンヌにある五輪博物館で“暴走”したのである。博物館の庭にあった立像をこわし、像についていた五輪のマークの輪の一つ一つに「マフィア(MAFIA)」の5文字をスプレーで吹きつけ下部に「トリノ2006」となぐり書きした。

 サマランチさんが熱心に推進して建てた五輪博物館で乱暴を働いたのは、マフィアのボスがトリノを決める暴挙をしたのだ、といいたかったのであろう。

 「禍福に門無し、唯だ人の招く所のままなり」という。禍いを、幸福も定まった入り口があるわけではなく、人が招くから来るだけである(山本七平著「帝王学」文春文庫)。

 サマランチさんがIOCの会長に留まる限り、禍がつぎつぎに訪れるであろう。サマランチさんの招く所のままなのである。

 IOCにとってまさに不幸な事態といわねばならない。

 批判者たちがIOCを去り、佞臣ばかりが集まっていては、IOCに明日はない。

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