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日展を楽しむ
牧念人 悠々
芸術の秋。靖国神社に参拝した後、六本木の国立新美術館で開かれている「日展」を見る(11月1日)。市ヶ谷から六本木まで地下鉄で19分である。まず一階の「日本画」に入る。目指すは友人・安田新一君の知人の川崎鈴彦さんの絵である。日本画の陳列点数346点。部屋も20室もある。案内嬢に聞くと「出品者の一覧表はまだできていません。目録をお買いください」という。
目録(200円)を見ると「第6室」にその名があった。「芭蕉布を織る人人」。
見事な対称の妙を見せる。糸巻を扱う中年の母親、その奥に下機を操る娘さん。動力になるまで日本の農村ではこのような手作業の機織りが続いた。長野県安曇郡には水の底に機を織っている女性がいるという“機織淵”の伝説がある。この絵の構図が素晴らしい。今の日本にこのような穏やかで生産的な母娘のいるのであろうか。川崎さんは元芸大の教授で、日本画家。安田君とは日大二高の親友だという。
近くに安田君から教えられた川崎麻児さんの「宙の階段」の絵があった。下弦の月の右側に宇宙に続くらせん状の階段が描かれている。三日月に「艱難辛苦を与えたまえ」と祈ったのは山中鹿之助。作者が求めたものは「平和」であろう。天と地の連結。コミューケーションはすぐとれる。話し合い、万事に便利だ。空想が広がる。らせん状の階段のモチーフは非凡である。
次に目指したのは2階の「美術工芸」の第三室。初入選を果たしたというのでお便りをいただいた牧内家の芸術家・牧内彰子さんの作品である。「波のコンチェルト」。茶色、青色の織り成す波模様に光る小さな玉の群れ。私が名づけるなら「真珠コンチェルト」。楽器はピアノかヴァイオリンかチェロか・・・・。しばしただずんでいると、声をかけられた。杉山辰子さん母娘である。牧内彰子さんは杉山辰子さんからみれば私と同じく甥の嫁さんである。昨日、土浦から上京、東京に一泊したという。辰子さんは元中学校の国語と音楽の先生であった。ふと、メンデルゾーンのウァイオリン協奏曲第三楽章を思い出した。アンダンテーアレグレット・ノン・トロッポ。その調べは華麗にして躍動する。その作品は茶、青の色の波が真珠の白に飾られて美しく躍動する。観終わった後も盛り上がる波が目に浮かぶ。心が揺さぶられる。彼女は「夕映えの美しい穏やかな海のようにそして遠くまでキラキラ輝き作品を観ていて心から安らぎが感じられるよう勉強してゆきたい」と手紙にしたためられてあった。今後を期待したい。
帰宅して夕刊を観て驚いた。2009年の「書」の部門(今回は「書」の部門の陳列点数は1113点。会場は24室)で、入選者の事前調整があったとして今年の大臣賞選出が取りやめになったほか開会式にも下村博文文部科学相の出席もなかったという。明治40年の第一回の文展までさかのぼれば今回の日展は通算百六回目の展覧会である。日展入選を目指して精進している若い芸術家がいっぱいいる。それを大御所と称される一部の人が無神経に毒してゆく。芸術の世界も・・とは信じたくない。
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