2013年(平成25年)6月20日号

No.577

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追悼録(493)

劇団「新生ふるきゃら」の小島茂夫さん逝く

 

 無骨ながら老人役を演じさせたらこの人の右に出る人はそう多くないであろうと、思っている。その人の名は劇団「新生ふるきゃら」の俳優小島茂夫さんという。6月11日公演先の大阪市で虚血性心疾患のため急逝した。享年71歳であった。中央線東小金井駅近くの斎場で開かれた通夜(6月16日)に参列した。弔問客は後を絶たなかった。みんなからその人柄を愛されたのであろう。喪主を務めた里花さんも顔見知りで、西行の歌に親しんでいるのを聞いて里花さんに西行の本を送ったことがある。

 小島さん新作「ドリーム工場」では老練なデザイナー役出ており、これまでと一味違った味を見せて評判であった。7月の三越劇場で見る予定にしていた。その急逝が惜しまれる。これまで本誌ではしばしば「新生ふるきゃら」のお芝居を取り上げてきた。小島さんの追悼の意味でその一つをとりあげる。(2010年5月1日号「花ある風景」)
ミュージカル「トランクロードのかぐや姫」を見る(2010年4月26日・東京北区『北とぴあ』)テーマは、街道筋の商店街の街起こしの話である。舞台で演ずるのは俳優13人。私の知っている顔ばかりだ。倒産にめげずに残っていてくれたのかと嬉しくなった。会場もほぼ満員であった。観客は惜しみない拍手を送り、あたたかく迎え、会場は例のごとく笑いと涙で沸きに沸いた。落選した元市長.並木陽一郎役の小山田錦司、その妻でもと保母・由子役の内山美穂、派遣切りに会い出戻った長男・隆役の螺沢真一郎、その妹・知恵役の浅田雛子、元市長の父、下駄屋・辰三役の小島茂夫、宿場町商店街の街起こしの火付け役となる水野美加子役の水香、呉服屋の婆さん役の大河原もと子、電気屋で噂を撒き散らす役の天城美枝、和菓子・団子屋の万徳役の早川真希夫、豆腐屋の繭子役の小沢薫世、正光寺の和尚役の大塚邦雄、倒産した鉄工所の熟練工の崖治安役の真壁宗英、信用金庫の営業マン・青山役の板津淳。天城さん、大河原さん、小沢さんらが久振りに舞台に戻って達者な演技を披露する。都会で失恋した水野美加子が街道筋の商店街に来てから町の様子が変わる。美加子は下駄屋の辰三さんのところでは下駄、わらじの伝統的なよさを説く。孫の隆があとを継ぐから技術を教えてくれと祖父の辰三に懇願する始末。それを妹の知恵は美加子に気があるからだと冷やかす。元市長の並木は夫人由子が開いた託児所の手伝いをする。近所のガキ達と遊んだり、おむつを替えたり涙ぐましく働く。閑古鳥が鳴く呉服屋では美加子のおかげで着物をトレンドのファションに変える。呉服屋の婆さんは10歳も若返る。豆腐屋は新製品開発に乗り出し、電気屋はうどん屋を始めるといい、町はたちまち明るくなる。それにいちゃもんをつけたのが宿場街の道路拡幅工事の立ち退き料を当て込んでいる崖ちゃんである。それに繭子まで後押しをして美加子を東京へ帰してしまう。崖ちゃんは和尚に説得され山を開墾、生計の道を立てる。そこへ青山につれられて神戸に行くという美加子が姿を見せ、崖ちゃんに迷惑をかけたことを謝る。それは逆だといって崖ちゃんが美加子をだましてお棺の中に閉じ込め、呉服屋の婆さんの元へ届ける。一時は崖ちゃんの誘拐・監禁の罪になるという話まで出る。美加子が神戸行きを止めて呉服屋を手伝うこととなり、話はめでたしめでたしで終わる。お棺で人を運ぶという発想はまことにユニーク。ふるきゃらのアイデアは健在であった。
 
 あれから3年、現在、このときのミュージカルに出演した俳優・女優で劇団をやめた者が少なくない。その上、小島茂夫さんの姿が消えてしまうとはまことに悲しい・・・

 


(柳 路夫)