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昨年9月23日、75歳で亡くなったアキコ・カンダの追悼公演「おもかげ」が6月28日、29日、青山円形劇場で開かれる。出席の返事を出した。今後はアキコ・カンダの遺志を市川紅美さんが継ぎ、ダンスカンパニーの代表を務めることになった。
アキコ・カンダとは岩波ホールの総支配人高野悦子さんを通じて知り合った。時間の許す限り彼女のダンスは見ている。しばしば本誌でも取り上げた。そのうちの一つを追悼の意味で取り上げたい(2000年4月1日号「花ある風景」)。
「アキコ・カンダの舞踊「黒い太陽」(渋谷のジァンジァン)は神戸大震災をテーマとしたもの。平成7年1月17日午前5時46分、震災は起きた。随所に地獄絵図を繰り広げた。
朝を待つ夢の眠りは/黒い力に引き裂かれた/朝はどこにある/命はどこにある/狂った時が/星を 雲を空も/塗り潰す
暗色のコスチュウムを身につけたダンサーたちが,大自然の恐ろしさ,人々の恐怖,もがき,嘆き・・・を全身で表現する。踊りのスピード,迫力十分である。見事な振り付けである。観客は身じろぎせず凝視する。
振り上げたこぶしを/投げる先もなく/壊された心の理由を/千切れる声で尋ねても/誰も答えない/闇も 空も 答えない
10名のダンサーたちの狂ったような所作が地震の猛々しさを,荒々しさを示す。思わず体を前にたおす。一転して白のコスチュウムと変わる。「死の舞い」である。不条理な人々の死を悼む舞いである。
あの命も/あの魂も/数えても届かない/瞳の底波さえなくした/悲しみの海
袋の形にくるまったアキコ・カンダらの踊りはさまざまな思いをこの世に残した人々の無念さを滲ませる。悔しかったであろう。最愛の人との別れはつらかったであろう・・・と思うと、胸がいたくなった。死者6308人,家屋倒壊10万5564軒。戦後,最大の惨事であった。すでに5年たつ。舞台は「黒い太陽を表現する。目の前でくりひろげられるのは肉体を極地まで酷使したすざましまでの芸術だ。
やがて踊りは力強さを増す。アキコ・カンダを中心とした舞は「握り締めた怒りは/空を仰ぐ瞳に変えて/こぼした悲しみは/地の塩に変えて」・・・華麗にしなやかに展開する。市民たちは悲しみを超えて再建へ・・・踊りはそう感じさせる。
最後にアキコ・カンダは二人に少女としとやかにそして可憐に舞う。「未来へ希望の舞い」。悲しみが深かっただけに希望はいっそう大きくふくらむ。二人の少女の表情がそのことをはっきりしめしている。(詩 神田 完 音楽 バンゲリス)」今や、アキコ・カンダなし・・・。心からご冥福をお祈りする。
(柳 路夫)
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