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「キャタピラー」で寺島しのぶがベルリン映画祭の銀熊賞受賞の理由
牧念人 悠々
若松孝二監督・映画「キャタピラー」で黒崎シゲ子役を演じた寺島しのぶが第60回ベルリン国際映画祭で最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞した。この賞のおかげで「キャタピラー」は一躍有名になった。遅まきながこの映画を見た(8月31日・テアトル新宿)。期待したほど観客は多くなく空席が目立った。大東亜戦争中、満州で手足を失い「芋虫」のようになって帰還した「生きた軍神」(少尉・金鵄勲章功4級・役者大西野信満)とその妻の物語である。映画を見てなるほどと思った。最優秀監督賞でなくて最優秀女優賞である理由である。監督の戦争や国防に対する認識・理解不足・偏見に比べて主演女優の方がはるかに映画の趣旨を理解して体当たり的な演技をしている。むろんその演技をひきだした監督の手腕を認めるのにやぶさかでない。
インタビューに寺島しのぶは答える。「これは単なる反戦映画じゃないんです。戦争への批判のまなざしは確かにありますが、そこに男と女のという普遍的な要素も入っている。強いメッセージと共に、男女が存在する限りつきまとう普遍的なテーマもおりこまれていて、なんというか、おもわずニヤリとしてしまいました」(「若松孝二・キャタピラー」編集・游学社)。芋虫になった夫がすることと言えば「食べる」「寝る」「セックス」だけでる。正確に言うと陸軍少尉の軍服を着せられ勲章を胸に付け、リヤカーに乗せられて村中をまわる仕事が加わる。寺島しのぶは表情豊かに、感情を爆発さて演じた。うまいと思う。
若松監督もインタビューに答えている『「北朝鮮」が脅威だ? アメリカの守ってもらわねば自国平和が保てない? ばかをいうなとおもいますよ』。北朝鮮により100人に及ぶ日本人拉致をどう考えるのか。明らかに日本の主権にかかわる問題だ。いまだに解決していない。しかも核兵器を持っている。しかもそれを脅しに使っている。韓国の海軍哨戒艦の魚雷による沈没事件も起きている。これを脅威と見ないのは鈍感すぎるか、事実に目をつぶっているとしか思えない。自衛隊法には日本を守るのは自衛隊であると明記されている。自分の国を守るのはアメリカではなく日本自身である。誤解してはいけない。自衛隊は災害派遣だけに存在するものではない。日本とアメリカは安保条約によって日米同盟を結んでいるのである。監督はさらに答える。「アメリカ軍によって日本が外国の脅威から守られているなんて言うのはごまかしでしかないと思いますよ」。
日本がアメリカの核の傘に守られているのは事実である。だから中国も。北朝鮮の手が出ないのだ。ごまかしではない。「もしも基地によって安全が守られていると主張するなら普天間の移転先を東京湾にすればよいいじゃないですか」。これは戦略の無知から来る答えである。亜細亜の戦略拠点として沖縄が最も適している。海兵隊のヘリ部隊の運用は第7艦隊を中心として考えられている。その点からも沖縄が良いのである。
反戦を唱えることには反対しない。事実をはっきりと認識し、勉強もしてほしい。才能豊かな監督だけに惜しまれる。
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