2010年(平成22年)9月10日号

No.479

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安全地帯(296)

信濃 太郎

映画「きな子」を見る
 

小林義則監督の映画「きな子」を見る(9月2日・東京・ビカデリー2)。見習い訓練士と見習い警察犬の物語である。父親の後を継いで警察犬の訓練士を目指す望月杏子(夏帆)は途中であきらめるが、またチャレンジする。警察犬の見習い「きな子」は小ぶとりで、愛嬌がある。それでいてどこが鈍い感じ。それが訓練所の所長の娘・番場新奈(大野百花)が豪雨の中、山で遭難すると、たちまち倒木を乗り越え、川を渡って杏子と共にずぶ濡れの新奈を救出する。爽やかで心に響く映画である。

 訓練所の所長の番場晴二朗(寺脇康文)がよい。今時このような男を見かけない。訓練士をあきらめ父親の家業のラーメン店を継いだ田代渉(山本裕典)の店を訪れる。黙々とラーメン2杯を食べる。分からないようにお祝いの寸志をおいて、渉に「まずいぞ。もっと修行しろ」と言い残して去る。お祝いの寸志に気がついた渉が番場の後ろ姿に頭を下げる。ジーンと来る。

 何故か三船敏郎がジョッキを片手に「男は黙ってサッポロビールを飲む」のコマーシャルを思い出した。サッポロビール会社の広報部に勤務していた同期生二人の発案と聞いた。名前は松浦巌君と杉岡和彦君である。戦後ともに東大に学んだ才人と言う。「率先垂範」。「無駄な不平を言わない」と教えられた我々である。寡黙な同期生が少なくない。昨今はコミニューケイションをうるさく言う。人それぞれである。画一に人をはめ込む必要はない。

 「きな子」は実在の見習い警察犬で、今なお警察犬を目指して頑張っている。資料によれば、2002年5月15日生まれ。丸亀警察犬訓練所所属。8歳、メス、ラブラドール・リトリーバー。警察犬試験に6回も挑戦する。2005年地元テレビ局に取り上げられた訓練会で障害物を飛び越えられず、見事顔面着地を見せたことで一躍、有名になった。それでもあきらめず警察犬を目指すひたむきな姿に多くの人が勇気づけられたという。映画でも「顔面着地」のシーンが出て観客の笑いを誘った。

 私は小学生の時、犬に右足をかまれ7針縫った経験がある。犬はあまり好きではない。番場晴二朗はドックトレーナー宮忠臣さんの話を紹介する。「宮さんに言われた通り壁にもたれて座っていたら、しばらくして犬が近づいてきて足の上を歩いたり、すり寄ってきた。宮さんが”こちらが恐いと想ったら相手も怖がる。まずはこちらが心を開いて接するんだ”    と言う言葉が印象的でした」犬には心を開けばよいのか。よくわかった。

 現在、民間の警察犬は1300頭。行方不明の人を探したり、犯人の残した足跡を追ったりするほか、残していった物から探している人の物かどうか匂いで判断する仕事に従事している。