安全地帯(277)
−信濃 太郎−
友人荒木盛雄君の俳句の世界
江戸時代、「俳諧と蕎麦は江戸に限る」といったらしい。芭蕉の言葉だという。作品は作者の人柄の反映と信じているので「俳諧と蕎麦はその人の腕に限る」といいなおしたい。俳句誌は主宰者によって厳然と色分けされる。横山白虹・房子の衣鉢を継ぐ寺井谷子さんが主宰する『自鳴鐘』(北九州市)が日本では指折り数えられる俳誌であると思っている。日本には北から南まで優れた俳誌があるようである。
さる日、友人の荒木盛雄君から有馬朗人さんが主宰する『天為』の「清明句会」の俳句誌『清明V』(平成22年1月発行)をいただいた。荒木君はこの句会に入会して5年がたつ。『矢車草』と題して10句を寄せている。今回、清明句会が200回を迎えるにあたり。合同句集を出した。
元東大総長有馬朗人さんの俳句には鮮烈な印象がある。有馬さんに「夏服を着よトランプのジャック達」の句がある。この句を目にしたのはいつのことか。正月に決まって家族たちとトランプ遊びをする私にはジャック達の黒の大礼服は冬にふさわしいと思い込んでいた。大体、夏服に衣更えするという発想自体全く浮かばない。有馬さんの句は『清明V』に100句ある。冒頭の句は『一年の計ぬかりなく寝正月』である。優れた俳人はこのように発想するものかと感心する。私など真面目に俳句を読まなければならないと、この正月は頑張って『初夢や42.195キロ駆けぬけり』と詠んだ。寝ているのと駆けるのでは天地の差がある。
荒木君の俳句をあげる。
「春愁や鼻の削げたる兵馬俑」
「エジプトの王の棺や矢車草」
「赤壁や水牛一頭穭食む」
「胡同の石焼芋の太きかな」
荒木君には感心する。よく海外旅行に出かけ、たちどころに句を読む。台湾には句吟にも出かけ、現地で句会も開いている。その積極的な活躍には脱帽である。『胡同・・・』の句は懐かしい。両親が北京に住んでいたので、北京を訪れたことがあり「胡同」の雰囲気がなんともいえない。
『清明V』を詠んで心に響いた句を二つ。
『生涯に夫呉れし薔薇みな真紅』(草野茂子)
『漂白の遊子となれずしゃぼん玉』(山崎日出子)
『清明句会』のご発展を祈る。
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