2010年(平成22年)1月10日号

No.455

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茶説

皇室外交を考える

牧念人 悠々

 宮内庁長官の「一ヶ月ルールを守っていただきたい」という発言以来「皇室外交」とは一体何かと頭を悩ましてきた。昨年の12月14日の本誌ブログに次のように書いた。
 
▲鳩山由紀夫首相が14日に来日する中国の習近平国家副主席と天皇陛下との会見について慣例を破って実現させた。言語道断である。陛下への会見申請は、高齢で多忙な陛下に負担をかけないという理由で1ヶ月前に申請と決められている。原則は原則である。守らねばならない。もちろん例外があってもよい。それを破る場合、万人がなるほどやむを得ないと納得できねばならない。
 習近平副主席が次期主席であるといわれている。慣例を破る理由にはならない。あるとすれば日米同盟よりも中国重視である。明らかに政治的に天皇陛下を利用している。この明確な原則を破る理由として、鳩山首相は「杓子定規でダメということであれば国際親善の意味から正しいことかどうか」。陛下との会見ができなくても国際親善ははたせる。「政治利用という言葉に当たらない」と弁解する。「政治利用だ」と感じる人がいれば、政治利用である。ものはいいようである。鳩山首相はこのような表現をして万事をくりぬける。やがて落とし穴に落ちることになろう。

 この考えは今でも変わらない。ところで、毎日新聞の専門編集委員の金子秀敏が「アジア時報」(2010・1・2月号)に「核心にあるのは、一ヵ月ルールの是非ではなく皇室外交をめぐる暗闘だ。『政治利用』批判の裏とは、皇太子ご訪中の是非論である」として次のようなことを書いている。「2012年という年がカギになる。この年に中国では共産党大会が開かれる。胡錦涛国家主席が党の総書記を定年引退し,習近平副主席が後継者となる。人事は確定ではないがそう動いている。同時にこの年は日中国交正常化40年である。このタイミングで最高の格式の親善訪問である皇太子ご訪中を実現させることによって、日中間の嫌中感情、反日感情のレベルを下げるという計画は、自民党政権時代から日中双方で検討が続いていた。つぶそうという反対論もあった」さらに続く「天皇ご訪中は1992年にすでに行われており、国賓訪問は在位中に一度限りという外交慣例で、皇太子ご訪中が浮上している。布石として習副主席の夫人で歌手の彭麗媛さんの来日公演が11月行われ、この場で皇太子殿下が面会している。天皇の習副主席ご引見もこの流れだ」と言うのである。
 ともあれ、「政治主導」を標榜する民主党政権下であっても、私は「一ヵ月ルール」を破る会見は反対だ。陛下の健康を考えてのことである。だからと言って皇太子訪中に反対するものではない。むしろ賛成である。中国にへりくだる必要はないが、アジアの共存共栄のためには仲良くしていかねばならないからだ。先の大戦はそのことを明示している。皇太子のご訪中については大局的判断が求められる。
 「天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみ行い,国政に関する権能を有しない」(憲法第4条)という規定になっているものの外国の賓客との会見は現実にはなくてはならないものになっている。とりわけ天皇の外交的活動は日本の国際的地位の高まりとともに強まっている。「皇室外交」は欠かせない。その際、常に世界平和を祈念される天皇のご意思を尊重したい。昭和天皇は象徴天皇として20年をお迎えになった昭和41年の歌会始で当時のご心境をこう詠まれた。
 「日々のこのわがゆく道を 正さむと かくれたる人の声をもとむ」
 昭和天皇は「私の仕事ぶりとか行動は果たしてこれでよいのであろうか」と自ら反省され、その批判を国民に求められた。このお気持ちが今の陛下にも皇太子に引き継がれているものと信ずる。「皇室外交」こそ諸外国との親善友好・平和の絆を固めるために積極的に推進してほしい。