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山と私
(55)
国分 リン
――日本百名山「伊吹山」は高山植物の宝庫――
「そのままよ 月もたのまし 伊吹山」元禄2年秋 芭蕉 この句碑が伊吹山のドライブウェイ終点の駐車場へ建てられていた。
「伊吹山」(1377m)は滋賀県の最高峰、基本情報によると、古くは古事記や日本書紀に登場し、日本武尊や松尾芭蕉のゆかりのある山で、昭和2年2月14日に観測された、11.82mの積雪量は世界記録でもあると記されている。古くから薬草の宝庫として知られ、「伊吹山固有種」も多く、貴重な自然の宝庫である。日本海側の若狭湾からと太平洋側の伊勢湾からの季節風がぶつかり合って夏の晴天日も4,5日と教えられ、また山頂付近は常に霧が発生しやすく、その影響で低山のわりに高山植物が多い。
6時23分発の新幹線ひかりは空席が目立ち静かな出発である。エーデルの植物部の仲間と3人で出発した、名古屋で在来の東海道線に乗り換え大垣駅で、9時25分発の伊吹山行きのバスに乗り安心した。大垣の町並みは古い宿場町の面影を残し、車窓から興味深く眺めた。ドライブウェイに入るとカーブが続き、高度を上げ駐車場に到着。霧の中で眺望は無い。10台の観光バスが並び、車の数も多い。西遊歩道から頂上を目指す。霧が晴れ、お花畑に目を奪われ歓声をあげた。イブキトラノオ・クガイソウ・今にも咲きそうなピンクのシモツケソウ本来ならばこの時期にピンクに染まるはずが、今年は1週間ほど遅いらしい。メタカラコウ・イブキノエンドウ・キバナノレンリソウ・シュロソウ・マルバタケブキ・アカソ・アザミ・ミヤマコアザミ・イブキアザミ・コイブキアザミの赤紫・シロアザミの花は初めてみた。イブキフウロやエゾフウロや白山フウロの違いなど、40分で登れるところ90分、ゆっくり花を愛でながら登る。
ポツポツと雨が落ちてきた。遠くで雷が鳴り出した。
雨具をつけ、頂上へ着いた頃はザーザーの音とともに酷くなり、NPO法人の自然観察小屋へ飛び込んだ。四方の壁に伊吹山の花の写真が展示されていた。大勢の登山者が雨宿りや昼食を取り大賑わいであった。夏休みで子供連れや、40人の団体さんなど次々到着。自然観察員の腕章をつけた人が、伊吹山を丁寧に説明し、皆の質問に答えてくれる。私たちもイブキジャコウソウの群落地を質問し、雨が小止みになり、その場所へ行き一面の花に感激した。頂上付近は3軒ほどの茶屋があり、周りにはカワラナデシコ・キバナノカワラマツバ・ヤマホタルブクロ・イワアカバナ・イブキボウフウ・キバナノレンリソウが咲き、見つけては喜んだ。もう午後は晴れないと教えられた。琵琶湖や周囲の景色は無かったが、お花畑に満足したので、下山する事にした。帰りは東遊歩道で一周の予定が、雨で滑るし、石灰岩は尖っているので、けがをする率が高いと観察員の指導があり、西遊歩道をピストンで帰ることにした。帰りはガスがかかり良く花も見えず、あっという間に駐車場に着いた。でもここでも自然保護員の説明によると、「オオバコ・ヒメジョオンなど観光客が運んでくる帰化植物に侵食されとても心配です。」よく観察すると本当に足元に多く見られ、心配になった。それでこの自然を次世代にと、NPO活動を納得し少しは安心した。
この景色と固有高山植物たちに会える「伊吹山」大勢の方々に知らせたいと、いやそっとしておきたい気持ちが交錯した。でも、私はJRの青春18切符で季節を変えて何度も登って、変わり様をひそかに観察しようと決めた。
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