2009年(平成21年)8月1日号

No.439

銀座一丁目新聞

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花ある風景(354)

並木 徹

演劇集団「円」の演劇「宙(そら)をつかむ」を見る

 作・演出宋英徳・演劇集団「円」の「宙(そら)をつかむ」−海軍じいさんとロケット戦闘機―を見る(7月17日・東京新宿・紀伊国屋ホール)。戦争中のロケット戦闘機開発をめぐる話である。米軍のB−29が東京を80機で初空襲したのは昭和19年11月24日である。それ以後、定期的にマリアナ諸島から高度1万メートルを時速540キロで飛来、日本各都市を空襲、大損害を与えた。日本にはこれに対抗する飛行機がなかった。日本では昭和19年7月ドイツから取り寄せたメッサーシュミットME163の一部の不完全な資料をもとにロケット戦闘機の開発を急いでいた。国産化は陸海軍共同開発でスタート、実務を三菱名古屋航空機製作所と三菱名古屋発動機研究所が担当する。ロケット戦闘機は「秋水」と名付けられた。
 お芝居の主人公は料亭を営む政じいさんこと鶴本政吉(橋爪功)。大の海軍好きである。この海軍じいさんを中心に展開する。「困難は乗り越えるためにある」と海軍側の開発責任者、小清水大佐(武本純平)に開発・完成をせかされ、怒鳴られる三菱側の喜多部長(山口慎司)、内野(大竹周作)を励ます。一人息子の直樹(石原由宇)は文学への夢を捨てて海軍予備学生となる。飛行機乗りになり、やがて特攻へと飛び立つ。直樹は使用人の娘で胸を病んでいる八重(乙倉遥)をひそかに恋しながらあくまでも妹と思っていると言い張る。試験飛行をするのは大塚豊彦海軍大尉(海兵70期・大窪昌)である。その妻琴江(冠野智美)と大塚大尉に子づくりの方法を政じいさんはユーモラスに教える。海兵70期の航空要員177名のうち神風特攻隊長として戦果をあげた関行男大尉をはじめ130名が散華している。
 秋水のテストは昭和20年7月7日海軍横須賀航空隊追浜飛行場で行われる。だが高度500メートルほど上昇したもののエンジンが停止して飛行場の西端に不時着陸して失敗に終わった。大塚大尉は殉職する。事故の原因は燃料タンクの構造上の問題であった。ついに戦争には間に合わなかった。政じいさんらはがっかりする。残された大塚大尉の妻琴江は子供を宿していた。生まれる赤ん坊を楽しみにして生きていくという。
 やがて終戦を迎える。敗戦を政じいさんは頑固に信じないが米田海軍大臣(野村昇史)が訪ねてきて初めて納得する。そこでお得意のセリフが出る。「困難は乗り越えるためにある」。幻ろしに終わった日本の有人ロケットはいつか日本人の手で「宙をつかむ」ことになるだろうという。夢を持てばいつか夢は叶うのである。単なる戦争物語でなく、「若者よ夢を持て」と強く訴えている。