2008年(平成20年)9月10日号

No.407

銀座一丁目新聞

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茶説

米大統領選挙は
共和党マケインが勝つ
 

牧念人 悠々

 選挙は「浮動票」を獲得した方が勝つのは日本でも米国でも同じである。11月のアメリカの大統領選挙でこれまで優勢だったバラク・オバマ上院議員(47)がここにきて共和党のジョン・マケイン上院議員(72)に追いあげられて互角に並ばれた。私は鼻の差マケインが抜いたと見る。その大きい理由は無名のアラスカ州知事、サラ・ペイリンさん(44)を選んだことである。すでに党内保守派を興奮させ、支持固めに一役買った「ペイリン効果」が伝えられる。オバマ陣営が言う「外交経験のない、人口9000人の元市長ではないか」の批判は的外れである。アメリカにはタフな女性政治家がいるものだ、彼女は32歳でアラスカ州ワシラの市長になる。利益集団に牛耳られた町の現職市長を破っての就任であった。州知事選でも自党の州知事の腐敗を指摘して、予選でも勝ち、本選では民主党の2期勤めた元知事を破って2006年12月当選した。初めにしたのは知事用ジェット機のネットオークションでの売却であった。彼女は改革者でもある。演説で彼女は「オバマはチェンジを口にするがなにも実行していないではないか」と批判した。彼女は知事となるや改革を進め、汚職を追放し、支出を削減した。公共事業のバラマキに反対し、ひもつき予算の実行を拒ばんだ。マケインの勝利を確信するデビッド・ルウさん(元大学教授・友人広瀬秀雄君の知人)のFAXには「ガソリン賦課税をとらず、原油高騰で暴利をむさぼった石油会社に追加税をかけて、それを納税者に1200ドルずつ返済している」とあった。アラスカは石油の埋蔵量の豊富なところ、ブルドー・ベイ油田は米国最大、ブルドー・ベイからバルデズまでパイプラインが通っている。バロウには海軍のための石油埋蔵地、アクトビックの自然保護地区にも石油が埋蔵されている。石油の高騰が続く中、マケインはこれまで凍結していたアラスカ保護地域の油田開発への規制を撤廃させることを主張した。この点環境重視を変えなかったオバマは「理想的」すぎるとして経済政策への支持を落としたといわれる(2008・9「選択」)。ペイリンの考えは石油・天然ガスの採掘には大賛成であるが、もっと地元企業の参入を認めるべきということだ。デビット・ルウさんも「アラスカは産油国、その知事であるペイリンさんはエネルギー政策について共和党の良き代弁者になるでしょう」という。ペイリンが共和党の副大統領候補になった意味はこんなところにも隠されているかもしれない。

 共和党全国大会が「ペイリン効果」をあげたのに対して民主党全国大会は、党大会後支持率が上昇する「跳躍効果」は1〰8%、一部で予想された15%を下回ったという(毎日新聞)。デビッド・ルウさんはさらに「ブラッドリー効果」をあげる。1982年にロス市長ブラッドリーが州知事の選挙に出た時、選挙前の予測も出口調査もブラッドリーの当選を伝えたのだが勝ったのは共和党のデユークメジアンであったことを指す。世論調査や出口調査で黒人候補に投票するといいながそうしない白人が多かったわけである。そのパーセンテージは5%といわれる。

 ペイリンにとって最大の難関は10月2日の民主党副大統領候補ジョー・バイデンとのテレビ討論会といわれる。国政経験35年のバイデンに太刀打ちはできないであろうとの声が聞かれる。5人の子持ちでしかも一人は障害児である。事前に障害あると知りながら中絶することなく産む。夜のうちに子供の弁当を作り朝は午前4時半に起きる。「母親は判事と陪審員を兼ね、予算を決め、出費の優先順位をつけ、経営者より時間管理にたけていなければならない」(「ニューズウイーク」日本語版9月10日号)というペイリンである。母親の誠実さ、着実、清潔な正義観、粘着力がワシントンの老練な駆け引き、たくみな言論術、タフな経験にそうたやすく負けるとは思えない。恐らくテレビ討論ではペイリンは好印象をもたれるだろうと推測する。

 現在世論調査はマケイン42%オバマ47%という(9月5日現在)。その差7%である。

 11月4日の大統領選挙までにその差が縮まるか。「ペイリン効果」があと2ヶ月の間に浸透すればマケインが勝利するであろう。海軍のパイロットのマケインはベトナム戦争の5年間にわたる捕慮生活、二度にわたる墜落事故など4度死線を超えてきた幸運の持ち主である。大統領選挙当選は確かに難しいハードルに違いないが稀有の幸運の持ち主に祝福が与えられることを信じる。

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