2008年(平成20年)5月10日号

No.395

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茶説

独り芝居「あらしのよるに」を考える

牧念人 悠々

  演劇集団「円」・金田明夫の「あらしのよるに」(作・きむらゆういち、絵・あべ弘士)は考えさせられる独り芝居であった(4月29日・全労災ホール・スペース・ゼロ)。嵐の夜、壊れ小屋でともに難を避けたヤギとオオカミの友情物語だが、絆、友情、異文化との融合、平和などの言葉が浮かんでくる。来日した胡錦涛国家主席と福田康夫首相に見せたいとさえ思う。
10年前に絵本「あらしのよるに」「あるはれたひに」「くものきれまに」の三冊が出来上がったと同時にこの芝居は、金田明夫の一人芝居と舞台でそれぞれ演じられるようになった。演出は小森美巳さん。いまは「きりのなかで」「どしゃぶりのひに」「ふぶきのあした」「まんげつのよるに」の合計7冊の絵本が出来上がっている。それだけ芝居の内容もふくらみができた。企画は亡き岸田今日子さん。岸田さんの感性はすごいと今更のように思う。
「ともに危ない思いをする」のはお互いに相手を思いやる気持ちを抱かせる。お互いに助け合おうという気持ちにもなる。嵐の一夜を共にした、肉食動物のオオカミのガブと草食動物のヤギのメイは種を超えて仲良くなる。嵐が異文化の壁を取り払ったのだ。もちろんオオカミはヤギを「御馳走だ。食べたい」と思う。相手は友達である。思いとどまる。絆が、友情が欲望を抑える。スクリーンに映し出されるあべ弘士の絵。真に迫った金田明夫の演技に観客は息をつめる。二人の会う合図はそれぞれの山の斜面に一本の線を書くこと。二人の秘密の付き合いもお互いの仲間の知るところとなる。カブはオオカミ仲間からヤギの居場所などの秘密を聞き出せと迫られる。メイもまたヤギ仲間から同じことを言われる。友情を裏切ることのできない二人は逃避行を重ねる。二人の合言葉は「あらしのよるに」である。逃れきれないと思ったカブは迫りくる仲間に向かって雪崩とともに打ち向かう。仲間のオオカミを撃退したけれどカブは行方しれずとなる。メイがガブと再会した時にはカブは野生にもどってメイと分からず、襲いかかる。メイが合言葉「あらしのよるに」というとやっと我にかえる。カブとメイの行く手には満月が待っている。二人は「これから二人で仲良く前に進んで行くぞー」と叫んだに違いない。
早稲田大学で講演した胡錦涛国家主席は「私たちが歴史を銘記するのは、恨みを抱き続けるためでなく、歴史を鑑に未来に向かうためだ」と述べた。戦前にも日本と中国にガブとメイは少なからずいた。それが不幸にして時代の激流を押しとどめることはできなかった。今こそ日中は「あらしのよるに」を合言葉に不戦の誓いに思いを致すべきときであろう。

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