花ある風景(298)
並木 徹
元日や雲ひとつなき富士の山
今年の正月は外へ一歩も出ずに年賀状書きであった。己の怠惰にうんざりしていたところへ霜田昭冶君からメールで正月の富士山の写真が送られてきた(1月6日)。早速プリントアウトした。藤沢にある自宅付近から撮影したというが、素晴らしい富士であった(表紙の写真参照)。頂の雪は裾の近くまで伸びている。今年は雪が深いのかもしれない。雲ひとつない空にそびえる富士のなんと雄大なことか。なまけ心がいっぺんに吹っ飛んでしまった。
手元にある葛飾北斎が描く富士(神奈川沖浪裏)は船の上から見たのであろうか、さかまく波の間からはるか遠く、覗くように描かれている。写真は藤沢の町並みを眼下に望みなら左手に緑の松の木を配して雪の富士を真正面から見る構図であった。
ふと、三好達治の詩を思い出す。
冬の日 しずかに泪をながしぬ
泪をながせば
山のかたちさへ冴え冴えと澄み
空はさ青に
小さき雲の流れたり
音もなく
人はみなたつきのかたにいそしむを
われらが上にも
よきいとなみのあれかしと
かくは願ひ
わが泪ひとりぬぐはれぬ
今は世に
おしなべて
いちじるしきものなく―(題・冬の日)
1月6日の花言葉は「カンアオイ」。花言葉は(秘められた恋)。鳥海昭子は歌う「いま少し語り足りない思いあり土に埋もれるカンアオイかな」(「花と短歌の365日」NHKサービスセンター)。
ところで北斎忌は4月18日。1848年に死んでいる。享年89歳。広重とともにフランス印象派画家に与えた影響は大きい。大野青瓶に「海よりの大いなる富士北斎忌」の句が生まれるのもうなずけよう。 |