安全地帯(186)
−信濃 太郎−
家政婦が見たのはこの世のあぶくであった
テレビ朝日土曜ワイド劇場30周年特別企画「家政婦は見た!」を拝見する(7月14日)。脚本・柴英三郎、監督・岡本弘。新聞のテレビ欄には「美貌の女性社長、8000億円の秘密・・・・秋子に似たソックリの女の謎!愛憎、嫉妬、裏切り、巨大グループの女たちが壮絶なバトル」とあった。面白く拝見した。
いつも事件解決へなにがしのヒントを与える大沢家政婦紹介所のメンバーがベンチャー企業の株で沸き、インサイダー取引などの言葉が飛び出し、挙げ句の果て株でちょっぴり損をする。その嘆き悲しむのは庶民の姿である。「お金を儲けることが悪いことですか」といい直る主人公、女社長・香月(若村麻由美)に一般庶民は文句なく反発する。
ライブドアー事件よろしく、時間外取引で密かに株を買い、会社乗っ取りを謀る。子会社の利益を本社へすり替え「粉飾決算」をし、株価をつり上げる。香月の智恵袋、武田専務の愛読書が「会社四季報」というのは面白い。当然でもある。俳句好きの私が「歳時記」を手ばさないのと同じである。子会社ヘルパー社長山口トミ(市原悦子=二役)はコンサルタント投資顧問会社社長、龍介(淺野温子)に通じ、情報を流してぼろ儲けをさせる。トミの裏切りをうすうす感じた香月はトミに似た家政婦、秋子を指名して雇い、会議室でのモニターを見てその仕草を観察させる。モニターにこんな使い方があるとは知らなかった。
トミは香月社長の父親(夏八木勲)の愛人である。夜叉面彫り師の父親は次から次に女を取り替える男であった。芸術のためと言いながら、ギリシャ神話に出てくるジュピターさながらの振る舞いであった。愛憎と嫉妬にさいなまれる香月はトミを父親から離なしたかったのだが、最後はトミは睡眠薬を飲んで肝臓ガンを患う父親と共に死ぬ。この古風な決着に対比して先端のベンチャー企業でお金儲けに狂奔した美貌の社長の帰結は「逮捕」と部下の「裏切り」であった。家政婦秋子が見たものは時代のまにまに流れてゆく人間が時には栄えてもはかなく消えてゆく「あぶく」ではなかったのか。 |