2007年(平成19年)6月1号

No.361

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茶説

松岡利勝農水相の自殺を考える

牧念人 悠々

 新渡戸稲造著「武士道」(矢内原忠夫訳・岩波文庫)はイギリスの詩人ガースの歌を引用して自決について書く。「名誉の失われし時は死こそ救いなれ,死は恥辱よりの確実なる避け所 と、ガースの歌いし感情に同感して、いかに多くの者が莞爾としてその霊魂を幽冥に付したか! 武士道は名誉の問題を含む死をもって,多くの複雑なる問題を解決する鍵として受け入れた」
 赤坂の議員宿舎で自殺した松岡利勝農水相の心境はどうであったのか。「恥辱」を避けたかったのは間違いあるまい。昔から日本人は「死者にむち打たない」と言う。むしろ好意的にとらえられる。戦後初めてだという現職大臣の異例というべき自殺である。あえて取り上げたい。
「政治とお金」の中での悶死である。しかも談合事件との関連を追及される直前の死であった。この談合事件は公正取引委員会が年間7億円の発注金額に過ぎず告発を見送るはずであったのを検察の意向で刑事告発に踏み切った経緯がある(毎日・産経)。「わたしの自身の不明、不徳のためお騒がせし、ご迷惑をおかけいたしましたことを衷心からおわび申し上げます。自分の身命を持って責任とおわびに代えさせていただきます」と遺書しても「政治とお金」の明細を封印しては国民の納得は得られない。これでは日本の政治は一向に良くならない。追い詰められた大臣の心中を察しはするが、かけがいのない命を代償にするなら政治資金の実態を明らかにして「どうしても政治にはお金が必要だ」と訴えた方が国民の心に響いたであろう。「多くの複雑なる問題を解決する鍵」を開けて欲しかった。惜しまれてならない。
 カナダの文明評論家、マクルーハンは「悪いニュースには変化の目がある」と言った。「農水相の自殺」は悪いニュースである。どのような変化がお起ようとしているのか。国民は格差社会にあえぎ、年々減りつつある年金に神経をとがらし、老齢社会に不安と不信を抱いている時、政治には強力な実行力と適宜、適切な政策を求めて止まない。それなのに今の政権は「政治とお金」の問題でもたもたし、説明責任も果たさない。緑資源機構の談合事件捜査は明らかに松岡農水相を視野に入れているのに、松岡大臣は「参院選挙を控え、党や内閣にこれ以上迷惑を掛けられない思い詰めた可能性が高い」(産経新聞5月30日)と死を選ぶ。いつまでもこのような政治でいいのかという気持ちに国民はならざるを得ない。さらに林道談合のキーマンである旧森林開発公団の元理事(67)の自殺(5月29日)がその気持ちを増幅させる。
 松岡農水相に自殺した朝(5月28日)毎日新聞の世論調査は内閣支持率が内閣発足以来最低の32パーセントを記録(日経調査41パーセント、朝日調査36パーセント)した。注目すべきは参院選挙では民主党に期待するというのが42パーセントで、自民党に期待する32パーセントより10パーセントも多いことだ。「農水相の死」の評価は7月の参院選挙後にはっきりでる。

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