安全地帯(180)
−信濃 太郎−
前進座の「新門辰五郎」をみる
今年の浅草寺の三社祭は逮捕者を出す騒ぎであった(5月21日)。「火事と喧嘩は江戸の華」と言うが、昨今は「お祭り騒ぎ」も入ったようである。神社側は「御輿に人が乗るのことは神霊を汚す行為」として今年の宮出しの中止を検討したところ、参加団体が「御輿に乗らない」と約束したので開催した。その約束を担ぎ手が反故にしてしまった。御輿の宮出しは七代目新門辰五郎(杉林仁一さん)の一声で始まる。雑踏を警備し、担ぎ手を仕切る辰五郎としては無念であったろうと思う。
その騒ぎより5日前、作・真山青果、改訂・演出・津上忠、前進座の「新門辰五郎」を見る(国立劇場)。幕末14代将軍家茂のお供をして、浅草十番「を」組の頭・新門辰五郎(中村梅雀)は組下200人を率いて上洛する。そこで京都市中見回りの会津藩主松平容堂指揮下の会津部屋の仲間・小者たちとことあるごとにトラブる。あわやというところを止めに入るのが会津の部屋頭・子鉄(藤川矢之輔)である。後で兄弟分の縁を結ぶ二人のやり取りは見ていて気分がすっきりする。京都へ軍資金調達のために潜入してきた水戸天狗党の浪士をかくまい、ひと騒動起きる。恩をおけた水戸家のためだが、後難を恐れず引き受ける任侠が心地よい。クライマックスは祇園の社の火事の場である。「祇園さまは京都の宝だ。京都の宝は日本の宝だ。新門の命にかけても、必ずこの火事は消口を取ってみせる」火事装束を身につけ十番「を」組の纏を先頭に組下を引き連れて火事場に向かう辰五郎の姿はまさに「江戸の華、いや日本の華」であった。これぞ「男の芝居」と絵馬屋勇五郎役の中村梅之助がいうのも無理はない。舞台いっぱい響いた「木遣り歌」の荘厳な歌声が最後まで心に残った。 |