2007年(平成19年)3月20号

No.354

銀座一丁目新聞

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安全地帯(173)

信濃 太郎

男たちのララバイ

  子守り歌は親守り歌であり、孫守り歌であるという。人にはそれぞれ「人生歌」があるといったのは作詞家の吉岡治さんであった。失意の父親とともに樺太を去る時、港で聞いたのが「大利根月夜」(詞・藤田正人、曲・長津義司)であった。その歌に吉岡少年の目から自然に涙が出た。心に響いたのである。それが「人生歌」となった。寺山修司も同じことを言う。「人の一生は/それぞれ主題歌が/あるのではないだろうか/それを思い出して/唄ってみるときに/人は何時でも/原点に立ち戻り/人生のやり直しが/きくような/カタルシスを/味わうのではないだろうか」(「日本本童謡」・光文社)。日本子守唄協会主催で開かれた「男たちのララバイ」(3月9日・内幸町ホール)で宗教学者、山折哲雄さん、女優、藤村志保さん、協会代表、西舘好子さんの鼎談を聞いていて、改めて「子守唄」の深さに気づかされた。山折さんの話ではいまから15、6年前から子供たちは「子守唄」を聞かされても耳をふさぐようになり、重ねて聞かせようとすると頭か布団をかぶってしまうという。いまの子どもはポップ全盛のテレビを見ているので子守唄のような「哀調」には拒否反応を示す。日本の抒情歌は姿をけしてしまった。藤村さんは最近、緒形拳さんから聞いた話として「段々お袋に似てきて『ご苦労さん』とか『もったいない』というようになった」と、緒形さんのお袋返りの様子を紹介した。幼児期に母親から聞かされた「子守唄」は大人になっても体にしみついている。幼児期に『子守唄』を聞くのはきわめて大切である。子守唄は赤ちゃんに安心感を与え、情緒の安定した子供に育つに役立っているとうアメリカの精神医学者の報告がある。それによれば、世界中各地で戦争があるが、そこでは悲惨な光景を子供が見て精神障害児がたくさん発生している。沖縄戦や原爆での惨状にもかかわらず日本で精神障害児が出なかったのはこの「子守唄」を赤ちゃんの時に聞かされたためであるという(医師、赤枝恒雄さんのエッセーから)。昨今、学校で事件が起きると子供たちに心のケアが必要になってきているのは幼児期に子守唄を聞かされなくなったのと大いに関係がありそうだ。
 西舘さんは言う。「男がさんざん味わった孤独感や寂寥感、威厳や虚勢、哀愁といったものが、ある日突然、吐息のようなつぶやきに変わり、各人がそれぞれ、人生のラブソングや子守唄を唄うようになれば、父性愛をふんだんに行使することで世界が変わるかもしれない」西舘さんはロマンチストである。男達も歌おうよ。「人生の歌」を・・・

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