2006年(平成18年)12月10日号

No.344

銀座一丁目新聞

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茶説

匿名社会の怖さを知れ

牧念人 悠々

  「私は6人の正直な召使いを持っている。彼らはいつも私の知りたいと思っていることを教えてくれる。彼らの名は『何を』『何故』『何時』『どうして』『何処で』そして『誰』という人たちである」ノーベル賞を受賞した海洋詩人、ジョセフ・ルドヤード・キャプリングの詩である(扇谷正造著「現代ビジネス金言集」)。私たちは今このうち大切な『誰』という正直な召使いのひとりを失おうとしている。大切なというのは私たちに『知りたいと思うこと』を教えてくれるからである。読者はプライバシー保護の名のもとに『知りたいと思うこと』の権利を放棄しようとしているのだ。この危機を訴えたのが日本新聞協会の冊子「実名と報道」である(12月7日)。
新聞記事には5Wプラス1Hが必要である。WHAT(何を)、WHY(何故)、WHEN(何時)、WHERE(何処で)、WHO(誰)、HOW(どうして)この中から一つでも欠いては不完全な記事である。真実を伝えるにはこの5W+1Hがいる。真実を確認する場合でも欠くべからざる条件である。私はスポーツニポン新聞の社長時代の平成5年1月、新年挨拶の中で5W+1HのほかにLOVE(愛)のLを付け加えようと提案した。その趣旨は『人権に対する配慮、批判する相手への思いやりといった意味もある。愛が滲み出る記事には読者は感動する。物事を判断する上でも愛がいる』というものであった。それから13年、犯罪報道に対する読者・被害者からの苦情、批判を考えれば、この提案は今でも考慮に値する。
 広島市で昨年11月、下校途中に殺害された小学校1年生、木の下あいりチャン(当時7歳)の父親建一さんは地裁判決を前に実名と悲惨な性被害の実態について報道することを要望した。私はこのとき初めて加害者の卑劣な性的暴行を知った。匿名化は実態を曖昧にし、読者が共有すべき感情を希薄にする。また、犯罪の再犯防止にも役に立たないばかりでなく、情報の伝達を遅くし犯人の逮捕を遅らせることにもなりかねない。匿名化はいずれ社会に大きなひずみをもたらすであろう。被害者の苦情の回避やプライバシー保護と犯罪防止、早期事件の解決などの公益性と比較してどうかを考えてみるがいい。匿名化によリ得る利益よりも実名報道によって得る利益のほうがはるかに大きい。報道も心して当たらなければならなくなった今の時代である。だからこそ「LOVE」のLが必要なのである。

 

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