競馬徒然草(98)
―北海道の「ばんえい競馬」―
北海道の「ばんえい競馬」が、経営不振で廃止の危機にある。開催は来年3月までの予定だそうだが、途中で打ち切られる可能性もあるという。そうなれば長い歴史を閉じることになる。「ばんえい競馬」は、体重がサラブレッドの2倍の1トンもある大型馬の「ばんば(輓馬)」が、数百キロの鉄そりを曳(ひ)くことから、漢字では「輓曳」と書く。200メートルの直線コースで、2つの坂を越えて競う。数百キロの鉄そりを曳(ひ)いてのことだから、難所の坂越えをどう乗り切るかが見所となる、力の入る競馬だ。
馬といえばサラブレッドしか知らない人が多いが、サラブレッドだけが馬ではない。「ばんば(輓馬)」は、馬の種類としてはサラブレッドやアラブなどの軽種とは異なる、大型の重種ペルシュロン。明治の初めに農耕用として輸入され、開拓時代から農耕馬として飼育されてきた。やがて馬の力比べが始まり、「ばんえい競馬」となった。始まりは、開拓農民たちの祭りのようなものだったとみられる。その後、旭川、帯広、岩見沢、北見に競馬組合が発足、公営の「ばんえい競馬」として親しまれてきたが、経済の不況とともに馬券の売り上げが落ち込むに至った。累積赤字は31億円。今年度も9億円赤字の見通しというから、廃止も止むを得ないとみられるわけだ。
廃止となれば、騎手や調教師(約250人)の仕事や生活の問題もある。馬のほうは道内に子馬を含めて3000頭いるが、農耕馬としての仕事がなくなっている現在、どういうことになるのだろうか。
ところで、この「ばんえい競馬」は、外国にはない。日本でしか見られない。日本で生まれ育った、日本の文化のひとつである。その文化が消えようとしているのだが、これについては、どう考えるべきだろうか。保存運動もあるが、どうなるだろうか。 (
新倉 弘人) |