2006年(平成18年)10月10日号

No.338

銀座一丁目新聞

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茶説

政治家の歴史認識を問う

牧念人 悠々

 佐藤優さんの著書「日米開戦の真実」(小学館)にこんな下りがある。原告にソ連が含まれている東京裁判に関していえば、1945年8月8日、「日ソ中立条約」を侵犯してソ連は対日戦争に踏み切った。日本が侵略された側で「平和に対する罪」を犯したのはソ連である。さらにいえば、アメリカ。イギリスは中立条約を侵犯してソ連の対日参戦を"教唆"したのだから「平和に対する罪」の共犯者だ。つまりソ連、アメリカ、イギリスから日本が「平和に対する罪」で断罪される筋合いはないというのである。歴史認識とはこういうものである。もっとも「平和に対する罪」は東京裁判で設けられた罪名で、「事後法」である。私自身は東京裁判は勝者の復讐劇であり、軍事占領下の茶番劇であると思っている。佐藤優さんの本で新しい歴史認識をえた。東京裁判を肯定する人に是非読ましたい。
 国会論戦で日米開戦の詔書に署名した岸信介の責任を野党議員が安倍首相に問うたのは嫌がらせの何ものでもない。開戦時の首相東英機は6万5千語に及ぶ「口供書」の中で「国家自衛のために起つということがただ一つ残された途であった」といい、「この戦いは自衛戦であり、国際法には違反せぬ戦争なり」と主張した。次いで敗戦の責任については「当時総理大臣たりし私の責任である」といっている。戦争には国際法上「自衛」と「侵攻」の二つがある。その国が「自衛」といえば自衛戦争と解釈される。なにも国としてペコペコ頭を下げる必要はない。だからアジア諸国への「植民地支配と侵略」を認め謝罪した村山首相談話は個人としてはともかく国家を代表する首相としては国際法上取るべきではなかったものである。先進諸外国が自国発展のため他国を侵略し、あくどい植民地政策を進めた歴史を持つのにも一向に謝罪しないのはこのためである。市村真一さんが「政治家が歴史のことをどう言おうと、所詮それは政治外交の駆け引きに過ぎない。そうと承知の上で、互いに対処すべきものである。それを、相手を満足させる文書や発言でその場を収めるのは外交上の愚作である」(10月5日・産経新聞・正論)というのは当前である。日本はこの愚作をこれ以上積み重ねないで欲しい。
 安倍首相の中国訪問は成功であった。双方で「戦略的互恵関係」を確認した意義は大きい。いま日中の課題は「北朝鮮の核実験」「貿易・日本企業進出」である。安倍首相が靖国参拝について「行くかどうか、行ったかどうかも言わない」という禅問答的の意味を新聞は理解しない。日中はアジアの平和・繁栄のためにお互いに力を合わせ、助け合っていかねばならない時期に差し掛かっている。日中友好を深めていかねばならない。「靖国問題」に関わっている時ではない。歴史認識について胡錦涛主席との会談で安倍首相が「多大な損害と苦痛を与え傷跡を残した反省の上に戦後60年の歩みがある。60年の歩みを正当に評価して欲しい」と語ったというが、「戦後60年の日本の歩み」こそ日本の歴史認識を実践するものである。時代の大きなうねりは「日中の戦略的互恵関係」を求めてやまないのだ。

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