2006年(平成18年)7月10日号

No.329

銀座一丁目新聞

上へ
茶説
追悼録
花ある風景
競馬徒然草
安全地帯
自省抄
銀座の桜
いこいの広場
ファッションプラザ
山と私
銀座展望台(BLOG)
GINZA点描
銀座俳句道場
広告ニュース
バックナンバー

安全地帯(149)

信濃 太郎

注目される森林医学・森林セラピー

 「病は気から」という。邪気が体をむしばむのである。邪気とは悩み、くよくよすること、心配ごと、怒り、悲しみなどから生じる。健康な人は前向きに生きる、笑顔絶やさない、転換が直ぐに出来るなどのおかげで邪気は生じにくいし、すぐに追い出せる。私の友人、秋山智英君(元林野庁長官)は24年前の昭和57年夏「森林浴」を日本で初めて提唱、森が人間の体をリフッレシュしストレスを和らげる効果があることを世間に訴えた。「森林浴」は私たちの体から邪気を追い出す効果がある一つの手だてである。。誰しも森に行くと自然に爽快な気分になる。これは植物から発散する揮発性のフィトンチッドにより樹林の空気は清浄であり、いろいろな黴菌を殺す作用があるからである。秋山君の論文「森林の特性と健康」と、医学、薬学、森林學、環境学の第一線の専門家達の論文を納めた「森林医学」なるきわめてユーニークな一書が出た(朝倉書店・発行2006年5月30日)。
 長野県出身の秋山君は若いときから山好きで森林官として1950年代から1970年代にかけて南は屋久島から北は北海道の天然林まで日本の森林をくまなく調査する機会があった。その体験から生まれたのが「森林浴」であった。「現場に神宿る」という。「現場百回」ともいう。現場には宝物がかくされている。それに気がつく人とそうでない人がいる。神が与えた才能というほかない。秋山君の論文によれば、屋久杉原生林の中では動物の死骸があっても死臭がしなし、野営をしても風邪を引くこともない。多少二日酔いでも一時間程度跋渉すれば直ってしまう。ここではテルペン系の物質の発散量が普通のスギ林に比較して体験的に多いという感触を得たという。木曽のヒノキ林、青森ヒバ林などについてもすがすがしい気分になったり、心を和らげ疲れをいやしてくれたりするとある。このほかの論文には森林療法の先進地ドイツでホテルから直接森林療法道を徒歩で散策できるようになっていると紹介されており、日本のあちこちにある遊歩道のあり方に指針を与える。
 「森林薬学」はわたしには面白かった(有沢宗久・加藤輝隆)。「森林は自然が与えてくれた薬用植物の宝庫であり、天然の薬の大貯蔵庫である」という事実を多くの人が忘れている。一介の医者から御医になった男を描いた韓国のテレビドラマ「許浚(ホジュン)」には山に薬草を採取するシーンがよく出てくる。今世界で開発の名の下に森林の伐採が進められている。医薬原料の供給源としての森林の役割を見直すべき時である。人類は自分で自分の首を絞める愚を犯している。本書は森林セラピーのキックオフ宣言と同時に環境保護を訴える役割も果たすものである。

このページについてのお問い合わせは次の宛先までお願いします。(そのさい発行日記述をお忘れなく)
www@hb-arts.co.jp