2006年(平成18年)6月1日号

No.325

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安全地帯(145)

信濃 太郎

メキシコのオペラ歌手「夕鶴」を歌う

  メキシコを代表するオペラ歌手、エンカルナシオン・ヴァスケスさんの団伊玖磨のオペラ「夕鶴」のアリア3曲を聞いた(5月26日・東京・上野東京文化会館)。着物姿のヴァスケスさんが歌う声量豊かなアリアに美智子皇后様はじめ観客は惜しみない拍手を送った。
この夜開かれた黒沼ユリ子とヨゼフ・オレホフスキ「デュオ・コンサート」にヴァスケスさんが特別参加した。彼女は昨年9月から10月にかけてメキシコで初めて上演されたオペラ「夕鶴」に主人公「つう」役として他の3人の歌手や児童合唱団と出演している。使用された言葉はスペイン語ではなく「夕鶴」の母国語日本語であった。出演者全員が日本語を覚えるのに難行苦行した(本紙平成18年1月20日号「茶説」)。前代未聞の上演であったが、スペイン語による字幕を追いながらハンカチで目を覆いながらアンコールの拍手に立ちあがった観客が少なくなかったという。
 舞台では黒沼さんがヴァイオリン、オレホフスキさんがピアノでオニ遊びの歌「かごめかごめ」(作詩・作曲とも不詳)を伴奏する。この夜二人はプロコフィエフの「ヴァイオリン・ソナタ第2番ニ長調作品94a」やエンリッケスの「ヴァイオリンとピアノのための組曲」など息の合った演奏を披露し、観客を堪能させたばかりであった。誠に贅沢な伴奏である。

 かごめかごめ
 かごのなかのとりは
 いついつでやる
 よあけのばんに
 つるつる つうべった
 うしろの正面だあれ・・・

 アリア、「これなんだわ・・・おかね・・・」は悲しく響く。今の万事お金の世の中を風刺しているようである。「これなんだわ。・・・みんなこのためなんだわ。・・・おかね・・・おかね・・・わたしはただ美しい布を見てもらいたくて・・それを見て喜んでくれるのが嬉しくて・・ただそれだけのために身を細らせて織ってあげたのに、いまは・・・ほかにあんたをひきとめる手だては無くなってしまった・・・」(木下順二作「夕鶴」より)
 彼女の金の鈴のように響きわたる歌を聴いていると、児童合唱団の「かごめかごめ」の美しい合唱を、さらには「与ひょう」「惣ど」「運ず」のレチタティーヴォ(叙唱)も聞くたくなった。こんな思いに駆られたのは私一人だけではあるまい。

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