競馬徒然草(68)
―勝つ騎手・勝てない騎手―
何事もそうだろうが、勝負で勝つのは難しいことだ。騎手の成績の1年間を振り返ってみると、改めてその印象を強くする。まずは、東西の騎手165人(短期免許の外国人騎手5人を含む)の、昨年1年間の成績を見てみよう。騎手の勝利数には大きな差がある。そのことに改めて驚かされる。100勝以上を挙げた騎手は僅か8人に過ぎない。下のほうはというと、1勝もできなかった騎手が18人もいる。もう少し枠を広げて10勝で区切ってみると、10勝未満が98人で全体の6割を占める。10勝以上は67人で、4割というところだ。
さて、上位騎手に目を転じてみよう。トップの武豊から8位の蛯名までが100勝以上だが、何と言っても武豊の212勝が光る。2位の横山典134勝だから、その差は78勝。この差は大きい。因みに、12位に健闘した四位騎手が78勝。それを思えば、武豊の活躍ぶりの目覚しさが分かるというものだ。武豊は早々と1月23日に史上2人目のJRA通算2500勝を達成。2月26日には前人未到のJRA重賞通算200勝も達成。5月29日のダービーの時点で、早くも史上最速で年間100勝を達成するなど、数々の記録を樹立してきた。年間最多勝のリーデイングジョッキーに輝くことも15度目。この勢いは2006年の今年も続くだろう。
この武豊を追いかける騎手のうち、今後有望なのは誰だろうか。年齢的な若さから言えば、可能性のあるのは、唯一の20代である福永(4位、109勝)と見られる。昨年は武豊に続きGTに5勝している。とはいっても、武豊の年間勝利212勝に対して福永は109勝で、103勝もの差がある。福永は「豊さんに追いつき、追い越すこと」を目標にしているが、諦めかけたときもあるという。たまたま武豊と酒を飲む機会があったとき、福永の気持ちを察した武豊が「俺も岡部さんには追いつけないと、諦めかけたことがある」と漏らした。それを福永は「大事なのは諦めないことだ」と受け取った。武豊が目標にした大先輩の岡部騎手は、昨年引退したが、現役時代にリーデイングトップを続け、2943勝のJRA歴代最多勝利記録を保持している。この大記録を追いかける武豊は、通算2691勝で、その差も252勝と迫っている。来年には追いつき、追い越すところまで来ている。「大事なのは何事も諦めないことだ」というわけだ。
「人三馬七」という言葉がある。レースで発揮するする力は、馬の力が七分で騎手が三分という意味だ。この言葉を真に理解している騎手ほど精進しているようだ。 (
新倉 弘人) |