2005年(平成17年)2月10日号

No.278

銀座一丁目新聞

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山と私

(16)
国分 リン

−思い出の高峰温泉と「雪山・黒斑山」−

  新聞に自然を主なテーマに撮影する写真家水越武さんが一歩間違えば、こちらが命を落としかねない場所にいてこそ、「人間は自然に触れていることを実感でき、充実感を得られる。」癒しとなる雪景色ではなく、人間に「生」を問いかける風景を写真で紹介したいのだという。遠くから雪形を眺めるもよし、雪一面の大自然に挑むのもよし。雪とはなんと懐の深いものか。 この記事を読み納得した。
 
 昨年このコーナーで同時期に掲載した場所高峰温泉を計画した。まだ雪の世界を体験したことのない山の仲間を誘い、新幹線とバスを乗り継ぎアサマ2000スキー場の駐車場で宿から迎えの雪上車に乗り込む。今年は雪が大変多い。キャタピラー車の乗り心地は
いつもお尻に振動がガンガンとあたりよくない。10分程で宿の玄関に横付けし出迎えを受ける。いつものことながらサービスは心ゆくまで行き届いている。
 この日は晴れてはいたが非常に風が強く、黒斑山は尾根が危険なので今日は止めてくださいと宿の助言で、スノーシューで池の平まで歩くことにする。昨年とは違い雪が多く、細いトレースがついているだけで新雪の上を自由に足型を付けて歩く。初めて体験の仲間は手足が冷たいと、毛糸は温かくても風を通すのかなと、暖かい手袋と交換して、助け合ってゆっくりと歩いた。
 池の平湿原入口へ到着、避難小屋は雪に埋まり閉じられ、東屋も完全に雪に埋まっていた。折から太陽も姿を隠しこの場所は冷たい風が吹き抜ける。周りの景色も寒々しい。少し休憩をとり、雲上の丘を目指し、あまり踏み跡のない雪の中をスノーシューの踵を上げて急坂を登り始めた。20分ほど登ると初体験の2人はもう充分なので宿へ帰りたいの希望で相談して別行動にする。私たちはトレースを追い雷の丘へ着いた。一番高い頂でこの先の急坂の下は真っ白い湿原地帯が広がっていた。花の時期にここを訪ねようと心に誓い戻った。青空が広がり富士山も姿を現し快適に歩いた。
 この日の夕景は思わずカメラを片手に飛び出すほどの素晴らしさであった。
 夜8時半からの天体ショーは皆にお勧めしたい。大型の天体望遠鏡が3台、宿の広場に設置され、月・土星・シリウスをしっかり捉え、クレーターや土星の輪をはっきり確認させてくれた。裸眼では見えない天の川や流星群たちも見せてくれてマイナスの温度でも寒さを感じないほど皆で興奮した。
 宿の談話室からは小鳥達の餌場が良く見えて、ホシガラス・セキレイ・つがいの赤ゲラ・テン・リス等が良く観察でき喜び合った。
 
 今回のメイン雪の黒斑山登山を皆に勧めたが、初体験の2人はスノーシューで昨日のコースをもう一度しっかり体験したいとのことで、相談して別行動をとる事にした。私とYさん2人は宿の車(雪や氷用の大きなゴムの車輪がなんと車体と同じ価格にびっくり)で登山口迄送って頂く。6本爪のアイゼンをつけ雪のトレースを一歩一歩登りはじめる。曇りで周りの景色が無い。トレースが消え、前のグループの跡は膝まで埋まり、ちょっと違うのではとトレースを探すと、右側の下方に見つけた。折から後からきた単独行の男性がここは地元で何度も冬に登っていてこの道は違うとのことで、同行をお願いした。腰までの雪をラッセルして10分ほどロスをしてトレースに戻り登りだした。トーミの頭まで風の通らない場所で2回休憩をとり、ここは見晴らしの良い場所のはずが、眺望がなく、すぐ頂上を目指す。ここまで登ると雪が多いせいで、雪の壁が出来、樹木もすっぽり雪の布団をかぶり、昨年の1月や秋の様子とはまるでちがう世界を歩いている。だから面白いとも思う。2時間10分
で黒斑山(2,404m)へ到着。新潟六日町のパーテイの先客が賑やかだ。浅間山が見たいと願っていたら、スーツと浅間が噴煙とともに姿を現し、一瞬の間にガスの中へ消えた。これは期待できるとお昼を食べながら待っていると、とうとう姿を現し、隠れることが無くなった。どっしりと雪の筋をつけた浅間の姿と噴煙に何度みてもうっとりした。大病で6ヶ月も闘病生活をして始めて山登りを再開したという先客の男性が浅間の姿に感謝の涙を流す姿に、私たちも貰い涙した。 たっぷり浅間を眺めピストンで戻る。トーミの頭からは黒斑山の頂と浅間の雄姿が望め、思わずシャッターを押した。調子よく雪道を下り、岩の無い快適な下りは面白く、1時間あまりのアッという間に登山口へついた。地元の男性へ深く感謝したい。

 最終日素晴らしい天気に水ノ塔山へ登ろうとアイゼンをつけやどの前の登山道のトレースを踏みしめ歩き出す。林の中は快適で、動物の足跡もある。気分よく歩く。途中から風が強くなり、トレースが見え隠れするが、まだ青空で頂上も見え、ひたすら登る。1時間程で水ノ塔山(2202m)へ到着。中央アルプス・乗鞍・北アルプス富士山や360度の展望である。風が強く寒く、早々に戻るが、風で踏み後を消してしまう。でも青空なので迷う事は無い。強風で雪が小粒の氷の塊で容赦なく顔に突き刺さりとても痛い。装備はしっかりしないと凍傷や事故の元で、やはり自然を甘く見てはいけないことを学んだ。
 11時に宿へ着くが天候がよく時間があるので、高峰山(2092m)を目指す。昨年は亡き友渕上さんとスノーシューで共に歩いた思い出の道、一歩一歩が彼女と一緒に歩いているような錯覚にとらわれ、そうだ常に彼女を共に山へ登っているのを、再確認した山であった。

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