安全地帯(94)
−信濃 太郎−
ネットで妊娠中絶を頼む人がいる
考えられない事件が起きる。社会が何処がいびつになっている。ネット上で「妊娠中絶をしてくれる人居ませんか」と頼んだ宮城県石巻に住む29歳の女性に埼玉県新座の無職の男性(30)が「産婦人科の医者です。手術しましょう」と応じて石巻市の女性の知人宅で手術をしたが失敗、事件が明るみ出た。女性は妊娠7月から8月で、独身であった。男は医者の免許をもっていなかった。男は傷害の疑いで逮捕された(12月4日毎日新聞)。男も男。女も女で、同罪である。
携帯電話が万能だと思っているふしがある。女性は携帯電話からインターネットの医療に関する悩み事相談サイトに接続している。命にかかわることを機械に頼むとは「人情」が薄くなっている。親、友人、医者などに直接相談できなかったものか。おなかが大きくなった女性を見て周りの人は何も言わなかったのか。地域は砂漠である。それでいて「医者だ」と名乗った男をそのまま信じる女の無警戒さは理解しがたい。埼玉県から宮城県まで『手術』に出かける男の無謀さも想像を超える。
妊娠中絶の知識がなさ過ぎる。家庭医学書をみればいい。妊娠6ヶ月末が妊娠中絶可能の限度となっている。しかも中期は「小型分娩」だから一週間の入院が必要である。さらに中絶の際、麻酔事故があったり、子宮が傷ついたりするからその手術は簡単には出来ない。
新聞を見る限り手術をした?男がどんな素性の者かわからないが、読者には詳しく知らせるべきだと思う。防犯上ある程度プライバシが犠牲になってもやむを得まい。
「大学」(宇野哲人全訳注・講談社学術文庫)には「蓋し天の生民を下すよりは、則(すなわち)ち既にこれに与うるに仁義礼智の性をもってせざる莫し」とある。本来私達には「仁義礼智」の生まれつきが与えられているはずである。慈愛、正義、礼儀、知恵は人間として基本の徳目である。29歳、30歳になって今まで何ををしてきたのか。いたずらに暖衣飽食をし、無為徒食、すべて他人任せ、無知無謀である。「悪いニュースには変化の芽がある」という。時代は今大きく変わろうとしているのだろう。 |