2004年(平成16年)11月10日号

No.269

銀座一丁目新聞

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安全地帯(91)

信濃 太郎

いい俳句は火花が散る
 

  『銀座俳句道場』を開いてから4年になる。友人、知人から句集が送られてくるようになった。みんな上手なのに感心する。山口誓子著『俳句の心』(毎日新聞社)をみると、ドナルド・キーンは俳句を説明して『電極に似たものが二つあって、その間に火花が散る』といった。その二つの電極は季物と物。言葉としては季語と他の言葉。俳句はそういう詩であるという。ともかく俳句を読んで『散る火花』を感じなければならないらしい。私はそれを「心に響く」と称している。
毎日新聞社会部時代の友人竹内善昭君から『句集』(作品84句)が送られてきた。彼の句集としては3集目である。その中の1句である。
 「無言館出でて緑雨の眩しかり」

 彼にハガキを出して「眩しかり」の表現が鋭いと書いた。無言館は戦没画学生の慰霊美術館である。長野県上田市東前山にある。『小さな美術館への旅』の著者、星瑠璃子さんは「ここは、藝術とは、人間とは、平和とは何かに思いをこらす祈りの場なんですね」と記す。その思いを「眩しかり」に凝縮させたと批評した。
 10月の初めに同期生横森精文君の「いわき工場」に一緒に見学に行った。荒木盛雄君は次の一句を工場訪問記とともに送ってくれた。
 「階段を歩々登りつめ天高し」

 横森製作所は階段作りでは日本一である。小さな装飾金物の町工場から年商120億円の工場へ発展させた。「天高し」の季語が階段づくりの人生と重ねあわせ、横森君の今の姿を見事に表現している。
知人、椎名陽子さんから俳句同人誌「夢座」(bP50)が届いた。新宿で開いている彼女のカレー店に時々行く。その中に椎名さんの句が15句紹介されている。その中の一句
 「秋風や新宿に風などないと言う」

 私はこんな句が好きである。何気ない会話から浮かんだものであろうか。今の新宿を表現している。秋風という言葉から感ずる「さわやかさ」「さびしさ」「わかれ」などといった情緒さは新宿には微塵もないといいたいのであろう。一年前の6月、上野動物園の吟行で私は「こびとカバ名はあやめです梅雨晴れ間」の句をものにした。竹井博友に「いのちとはなんのことやらふきのとう」の句がある。俳句から散る火花は私の場合、哲学的なものかもしれない。

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