2004年(平成16年)7月1日号

No.256

銀座一丁目新聞

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安全地帯(80)

−信濃太郎−

遺体写真を掲載すべきか
 

 イラク戦争がはじまって以来、新聞に遺体を含めて残酷な写真が掲載されるようになった。その写真によって世論に与える影響は大きい。イラクの武装グループの人質になり殺害された韓国人金鮮一さんの遺体写真をマスコミが掲載しないよう韓国政府が指示したとテレビが伝えたのを聞いた。現にイラクへ韓国軍が600人が駐留しており、さらに3000人を派兵することになっている。写真掲載により派兵反対と反米感情が盛り上がる恐れが十分ある。
 遺体写真を載せるかどうかは難しい問題である。フセインの息子ウダイ、クサイの遺体写真を毎日新聞と産経新聞が掲載した。朝日新聞と読売新聞は載せなかった。朝日新聞の基準では「遺体写真は原則として扱わない、ただし読者に不快感、醜悪感を与えないでしかも事件の全容、核心を人道的な立場から表現できる時は弾力的に考える」となっている。各社ともこの基準と大同小異であろう。実質はケースバイケースで判断しているということであろう。それでも各社によって差異が出るのはどうしてなのか。編集者の時代感覚の差という他ない。その一枚の写真がその時代を象徴的に表現すると感じた場合にはどんな残酷な写真でも載せるべきだと思う。
 最近とみに考える。三島事件(昭和45年11月25日)の政治的意味である。この時、朝日新聞は切腹し、森田必勝(切腹)が介錯した三島由紀夫の遺体写真を掲載した。朝日の特種写真であった。当時、三島の「憂国の志」がわからなかった。三島は自衛隊を「本物の軍隊」にしたかったのだと思う。檄文には「日本を真姿に戻して死ぬ」とあった。著名作家の異常な死として扱われて政治的な影響を与えなかった。国民は余にも高度成長の繁栄に酔い痴れていた。三島は時代の先覚者であったといえよう。
 忘れていけないのは「品格」である。「新聞倫理綱領」にも「新聞はその有する指導性のゆえに当然高い気品を必要とする」と記している。判断に迷ったら「新聞の品格」を考えたらいい。テレビがしまらない番組を放映している時、新聞はテレビに流されることなく凛とした報道を示すべきであろう。

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