2003年(平成15年)11月1日号

No.232

銀座一丁目新聞

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競馬徒然草(31)

―秋の若駒― 

  秋たけなわ。若駒のいななく(嘶く)のを聴いた。
2歳馬のレース前。馬たちが、パドックで周回を重ねていた。不意に立ち止まり、嘶く馬がいた。歩き出したが、また脚を止めて嘶いた。遠い北国の牧場や母馬を偲んでのことだろうか。哀切な響きとともに、可憐な趣を感じさせる。毎年秋の新馬戦のときには、こうした情景を眼にする。散策を兼ねて競馬場を訪れる者には、得難いひとときでもある。
 それにしても、「いざ、レース!」というのに、これではいささか心許ないな。そうは思うが、これが秋の新馬戦ならではの情景の1コマである。その馬を応援したくもなるが、先頭を切って勝った試しはない。
 そんな馬とは別に、初戦から好走しそうな期待感を抱かせる馬もいる。ハイアーゲーム(牡)などは、その1頭。502キロもある堂々とした馬格で、レースでも力を発揮した(芝1800、1分50秒3)。話題の高馬(セリで1億5000万円)なので、特記すべきこともないかもしれない。
 一方、あまり話題にならなかった馬では、アポインッテドデイ(牡)。外国産馬で馴染みのない血統(父レッドランサム、母アポインティドワン)だが、スタートから先頭に立ち、6馬身の差をつけて逃げ切ってしまった(芝1400、1分24秒2)。関東馬なのに、敢えて関西の武豊騎手に騎乗を依頼したという。期待の大きさがうかがわれる。「ゴーサインを出してからの反応もよかった」とは、武豊騎手のコメントだ。次のレースも注目してみたい。
 牝馬では、サンデーサイレンス産駒のレディインブラック(母サマニベッピン)が特筆ものだ。小柄だと聞いていたが、実際の馬体重(442キロ)よりも、大きく見せる。垢抜けした品のよい馬で、将来性を感じさせる。3番手から早めに2番手に上がり、4馬身差の楽勝(芝1400、1分22秒9)。この勝ちタイムは速い。今後が楽しみな牝馬である。母が3つの重賞勝ちを含み6勝している名牝だけに、血統的な期待も大きい。
 このレディインブラックの場合、厩舎側の期待も格別のようだ。というのは、勝った翌週に連投で、しかもオープン特別のアイビーステークスに登録してきたからだ。こんな例は前代未聞。結局は登録だけで出走はしなかったので、幻のレースとなった。予備登録の時点でも人気になっていたほどだから、もし出走していたら、勝っていたかもしれない。そうなっていたら、「異色の大記録」として、騒がれただろう。
 とかく西高東低といわれるが、今年の関東の2歳馬には、期待馬が続々と登場してきている感がある。そんな眼で2歳馬のレースを見るのは、やはり今の時期ならではの愉しみといっていい。

(戸明 英一)

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